雅安蔵茶(康磚茶・金尖茶)とはー特徴・定義・産地・製法・淹れ方・飲み方

雅安蔵茶(があんぞうちゃ)

<雅安蔵茶>
読み : があんぞうちゃ
中文 : 雅安藏茶 Yă ān zàng chá
茶類 : 黒茶(四川黒茶)
産地 : 四川省雅安市
品種 : 四川省の小葉種品種
時期 : 4月上旬~9月上旬
茶器 : 蓋碗、煮出し を推奨

 

茶馬貿易の主役となった黒茶

四川省雅安市で生産され、主にチベット(西蔵)向けに出荷されているお茶を蔵茶(ぞうちゃ)と呼びます。

唐の時代から、チベットとの間で「茶馬貿易(ちゃばぼうえき)」という交易が行われていました。
これはチベットの高原地帯に住む軍用の馬を手に入れたい中国側と高原地帯で野菜が不足し、栄養素を補う物資として茶を求めるチベット側の利害が一致して、行われていた貿易です。

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わかば

お茶を馬で運ぶ貿易じゃないんですか?

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あるきち

そうやって間違えて覚えてしまう人もいるんだけど・・・。実際は、お茶と馬の交換貿易という意味ですね。四川からチベットへの道は、断崖絶壁を縫うような所もあって、馬が行き来できるような道じゃないので。全て人力で運んでいたからね。

茶馬古道を行く担ぎ手

こうしてチベットへ出荷されていたお茶が、蔵茶と呼ばれるお茶です。
蔵茶の黒茶としての製法が確立したのは明代の1524年頃だと考えられています。
輸送の必要性から、多くはブロック状に緊圧され、それをいくつかまとめて竹で包んだものを人が背負って運んでいました。

蔵茶は、チベットではミルクティーの原材料として、日々飲まれているお茶です。
「3日食料が無いのは大丈夫だけれども、お茶は1日無くても耐えられない」というような言葉もあるくらい、生活必需品となっているお茶です。

中国のお茶の生産量が少なかった時代は、少数民族への供給が優先され、漢民族は飲めないお茶でした。
が、近年、中国のお茶の生産量が増えてきたことから、一般の人たちも飲むことができるようになってきました。

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わかば

やっぱりミルクティーにするんですか?

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あるきち

いや、ストレートティーにして飲んでも美味しいんですよ。健康への機能性というのもあるんだけど、微生物などによる発酵を経て、お茶に含まれる刺激性のある物質が転化しているので、身体にやさしい印象があるお茶だと思います。

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わかば

プーアル茶と似ているような気がするんですけど、何が違うんですか?

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あるきち

一番大きいのはお茶の品種かな。プーアル茶は大葉種、蔵茶は小葉種を使います。さらに発酵の期間で行くと、蔵茶の方が期間は長い傾向にあります。元々の刺激性のある物質が少ない品種を、長めの発酵で転化させるので、プーアル茶より刺激は少ないんだろうと思います。

 

雅安蔵茶の定義

雅安蔵茶は以下のように定義されています。

四川省雅安市の行政区域内で、一芽五葉以内の茶樹の新梢(あるいは同等の柔らかさの葉)あるいは蔵茶の荒茶を原料とし、南路辺茶の製造技術を採用して、殺青、乾燥、渥堆、精製、ブレンド、蒸気圧製などの特定の工程を経て製造された黒茶類製品で、褐色の葉と紅い湯色、古びた香りと厚みのある味わい、戻りの甘さを有したもの。

業界標準『雅安蔵茶』 GH/T 1120-2015 より

ポイントになる部分は、まず”一芽五葉以内の”茶葉を用いるという点です。
お茶の木の、その年に成長してきた部分を新梢(しんしょう)と言いますが、成長していくと段々硬く、木質化していきます。
新梢の部分は緑色をしていますが、これが木質化してくるとその部分は白っぽくなります。
その木質化する一歩手前の部分は、少し赤っぽくなっており、これを「紅苔(こうたい・べにこけ)」と言います。
蔵茶は、この部分まで利用するのが一つの特徴です。

四川省の蔵茶は、生産地域によって2つのお茶があります。それが南路辺茶(なんろへんちゃ)と西路辺茶(せいろへんちゃ)です。
南寄りの道を通ってチベット本土へ向かうお茶を南路辺茶といい、雅安蔵茶はこちらに属します。
西路辺茶は、邛崍市、都江堰市、綿陽市の平武県、北川チャン族自治県などで生産されており、茯磚茶や方包茶といった製品があります。

雅安蔵茶の主要な製品は、現在は概ね3種に集約されています。
芽細(雅細)、康磚茶、金尖茶の3つです。

芽細(がさい)は、芽の部分の比率が高い高級な茶葉を用いた蔵茶です。
少し小さめのパッケージで販売される高級品という位置づけで、庶民のお茶というよりもチベットの高僧などが飲む高級茶です。
味わいは、他の蔵茶に比べると繊細です。

康磚茶(こうせんちゃ)と金尖茶(きんせんちゃ)は、製法的に差はほとんどありません。
違いは、原材料の茶葉の違いであり、康磚茶は基本的に紅苔の上の部分までを用い、金尖茶は紅苔の下の部分までを用います。
原材料が違うため、金尖茶の方がやや口当たりは硬い印象があり、康磚茶の方が柔らかい印象です。

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わかば

康磚茶の方が高級ということですか?

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あるきち

原材料のコストはそうだね。でも、チベットの中でも金尖茶の味わいの方が好きな地域もあるので、両方のお茶が流通しています。やっぱり好みってあるのよ。

 

雅安蔵茶の産地

雅安蔵茶の産地は、雅安市の全域が指定されています。
その中でも産地区分があります。本山茶、上路茶、横路茶などです。

雅安市はチベット高原から連なる産地が平地に降りて来るという特殊な地形もあって、雨が多く、蔵茶の原材料を作る茶園も高山に分布しています。
伝統的な蔵茶は、こうした広い産地で採れるお茶を季節を全て取り入れるようにブレンドし、安定した品質の茶を産出しています。

蔵茶の原料貯蔵庫

 

雅安蔵茶の製法

雅安蔵茶の製法は非常に複雑で、その製法は無形文化遺産に指定されています。
また、中国の少数民族政策を左右する戦略物資であることから、製法の詳細は国家機密に該当するものとされています。

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わかば

国家機密!なんてオーバーな・・・

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あるきち

それがオーバーとも言えなくて。実際、清朝末期にはイギリスの支配下にあったダージリンからチベットにお茶が持ち込まれて、四川のお茶の売れ行きが鈍ったこともあって。結局、インド茶をチベットから追い出すのに30年以上も掛かったという苦労の歴史があるので、このへんにナーバスになるのは仕方ないよね。なにしろチベットだし。

そんなわけで、ざっくりとした製法をご紹介します。

まず、茶摘みですが前述の通り、紅苔という部分まで摘み取る必要があります。
この部分は木質化が始まる一歩手前なので、”摘む”というよりは”刈る”というスタイルの茶摘みを行います。

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かおり

茶摘みの時期は部位によって違うんだけど、7月頃に摘むものが多いみたい。

摘んできたお茶は冷暗所で少し放置し、水分を飛ばします(攤放・たんほう)。
その後、殺青を行い、乾燥を行います。
こうして出来上がる緑茶が、金玉茶(きんぎょくちゃ)といい、これが原料茶の元になります。

蔵茶の原料茶(荒茶)は大きく分けて3種類あります。
毛荘茶(もうしょうちゃ)、做荘茶(さくしょうちゃ)、条茶(じょうちゃ)です。

「毛荘茶」は、殺青まで終わったお茶から、茎を取り除き、乾燥したものです。

メインの原材料茶となる「做荘茶」は、殺青まで終わったお茶を蒸し、柔らかくなった状態になってから揉捻を行います。
蒸して、揉む。この作業を3回繰り返すことにより、茶葉が柔らかくなって茶汁が溢れてくるようになります。

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あるきち

茶葉が成熟してかなり硬いので蒸して揉む工程を繰り返すんだね。この工程は蔵茶独特の工程で「三蒸三揉(さんじょうさんじゅう)」と呼びます。

三蒸三揉が終わった茶葉を渥堆室へ運び、渥堆発酵を行います。

渥堆室は、室温20℃以上、湿度85%以上を保つように温度コントロールし、そこに茶葉を積み上げ、水分を与えます。
しばらくすると茶葉が熱を持ち、茶葉を積んだ山の表面に白いカビのような微生物が付くようになります。
茶葉を積んだ山の内部は温度(芯温)がどんどん上昇していくので、茶葉が焦げないように、時折、茶葉をかき混ぜて、高温になっている内部の茶葉を外に出し、温度が比較的低い外側の部分の茶葉を中に入れるようにひっくり返します(翻堆・ほんたい)。
このことにより、外部の表面に付いていた微生物が内部に移るため、渥堆発酵も均一に進むようになります。

芯温をチェックしながら、かき混ぜる作業を何度か行い、おおよそ30日あまりで渥堆発酵が終了となります。
渥堆した茶葉には少しカビのような香りが残っているので、これを飛ばす目的も含めて、乾燥機で乾燥を行います。
乾燥が完了したら、做荘茶の完成です。

条茶は、做荘茶とほぼ同じ作り方ですが、三蒸三揉ではなく一蒸一揉のみで行うものです。

こうして出来た原料茶は、しばらく原料貯蔵庫で寝かせられ、緊圧される時を待ちます。

緊圧を行う前に、それぞれのお茶の規格に合わせてブレンドします。
たとえば、康磚茶であれば、做荘茶50%、条茶30%、毛荘茶7%、茎8%、面茶(表面に置くお茶)5%のようにレシピが決まっています。

ブレンドをした茶葉を蒸気で蒸し、茶葉を柔らかく成形しやすい状態にします。
竹の包装を用意し、その中に康磚茶であれば500gの茶葉を入れ、圧力をかけて突き固めます。
突き固めた後は、面茶を振り掛け、竹を編んで作った仕切りを入れます。
さらにその上に500gの茶葉を入れ、また面茶を振り掛けて、仕切りを入れ・・・のように作業を繰り返し、最終的に1つの竹の包装に20個の康磚茶を入れます。

こうして突き固めた康磚茶20個の棒を、貯蔵庫に入れて1ヶ月ほど寝かせます。
寝かせることにより、茶葉がしっかりと固まるのですが、その際に通気性を確保できるよう、互い違いに茶葉を組み合わせて柱状に積んでいきます。

蔵茶の貯蔵庫

1ヶ月ほど寝かせたら、竹のパッケージを一回あけて、お茶を1個分ずつに切り出し、1個1個ラベルをつけて包装していきます。
包装したお茶をもう1回竹のパッケージに綺麗に戻せば、一棹分の康磚茶の出来上がりとなります。

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わかば

思ってたより、すごい複雑ですね。これは難しい・・・

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あるきち

この作り方は伝統的な作り方をしている元国営の雅安茶廠というところの作り方。蔵茶を作っているメーカーは他にもいくつもあって、それぞれのメーカーがそれぞれの作り方を持っているから、やっぱり味わいはそれぞれ違うんだよね。日本酒がメーカー(蔵)ごとに違うのと同じ。蔵茶もそういう選び方が出来るようになるといいね。

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わかば

メーカーによって、結構違うものですか?

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あるきち

渥堆のやり方の違いだったりで、かなり香りや味には違いがあるね。比較的クセが少ないものもあれば、ちょっとクセが強いのとか。あとは、黒茶なので寝かせた年数によっても味が違うしね。メーカーの中でも、グレードを色々作っていたりするし。

 

雅安蔵茶の特徴

ここまで書いてきた雅安蔵茶の特徴をまとめると、

・蔵茶は、チベット向けに出荷されていたお茶の総称で、主要商品には芽細、康磚茶、金尖茶などがある。
・渥堆発酵を行った黒茶で、プーアル茶との違いは小葉種を発酵させたものなので、お茶の刺激性が少なく身体にやさしい印象のお茶。
・メーカーごとに製法や発酵手法に違いがあるので、その差が楽しめるほか、黒茶らしく経年変化も楽しめる。

ということになります。

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あるきち

黒茶というと日本や台湾ではプーアル茶しか思い浮かべない人が多いんですけど、蔵茶は機会があれば、ぜひ飲んで欲しいお茶ですね。

 

雅安蔵茶の淹れ方・飲み方

雅安蔵茶は、数年寝かせたものがほとんどの黒茶ですので、味わいを出すには少し工夫が必要なお茶です。
淹れ方としては、

・茶壺
・蓋碗

で煎を重ねて淹れる方法でも良いのですが、もう1つの方法として、

・ヤカンで煮出す

方法もお薦めできます。

ここではヤカンで煮出す淹れ方をご紹介します。
ヤカンの大きさにもよりますが、1リットルあたり5g程度の茶葉を使います。

まず、緊圧された蔵茶に、アイスピックや千枚通しのようなものを使って、茶葉を崩します。
他の緊圧されたお茶に比べると、康磚茶や金尖茶は崩しやすいものが多い印象です(芽細は少し苦労するかもしれません)。
茶葉を崩すときは、アイスピックなどを差し込んだら、上に持ち上げるなどして、茶葉を剥がすようにして崩すと良いと思います。

崩した茶葉は、麦茶などを作るときに使うお茶パックに入れます。

ヤカンに水を入れ、お湯を沸かします。
沸騰したらお茶パックに封入した茶葉を入れ、4~8分ぐらい(濃さはお好みで)煮出します。
蔵茶は長く煮出しても渋くなりませんので、お好みの味わいの濃さを優先してください。

煮出した後は、お茶パックを取り出します。
すぐに飲んでも良いのですが、蔵茶特有の香りが少し気になる場合は、ちょっと冷ましてから飲みましょう。
夏場は粗熱を取ってから保冷ポットに入れ、冷たくして麦茶感覚で飲むこともできます。

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フーマオ

すぐに冷たくして飲みたいときは濃いめに出して、氷の入ったグラスに入れると簡単だよ!

 

雅安蔵茶の保存

雅安蔵茶は、長期保存が可能な黒茶です。
ただし、カビが生えたり、直射日光に当たると劣化して飲めなくなってしまいますので、保存の環境には注意しましょう。

長期保存したい場合は、包装されている紙に包まれた状態のまま、常温で直射日光が当たらず、結露などがない、風通しの良い場所に置いておきます。
また、においの強いもののそばには置かないようにしましょう。

 

雅安蔵茶は、日本で扱っているお店は、まだ少なく、中国の大都市でもまだまだ見かけることの少ないお茶です。
プーアル茶のように投機目的にはならなさそうですが、合う方には普段飲みのお茶として欠かせないお茶になると思います。
長期保存も可能なお茶なので、見つけたらぜひお試しください。

 

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