安化茯磚茶とはー特徴・定義・産地・製法・淹れ方・飲み方

安化茯磚茶(あんかふくせんちゃ)

<安化茯磚茶>
読み : あんかふくせんちゃ
中文 : 安化茯砖茶 ān huà fú zhuān chá
茶類 : 黒茶(湖南黒茶)
産地 : 湖南省益陽市安化県 ※安化黒茶として地理的表示産品
品種 : 雲台山大葉種、楮葉斉など
時期 : 3月下旬~9月
茶器 : 蓋碗、煮出し を推奨

 

金花のある黒茶・茯磚茶

茯磚茶は、湖南省益陽市安化県で生産されている、レンガ状に緊圧された黒茶です。
伝統的には少数民族、とりわけ新疆ウイグル自治区などへ向けて出荷されることが多かったお茶です。

茯磚茶の大きな特徴は、「発花」と呼ばれる長期間の後発酵工程を経て、”金花”と呼ばれる冠突散嚢菌(かんとつさんのうきん)という菌が多く付着することにあります(冒頭の茶葉写真にある白い点のような部分)。
この菌が付くことによって、茶葉の成分が転化してまろやかになるとともに、菌自体の機能性などが話題になっています。

茯磚茶は、歴史的には陝西省咸陽市涇陽県で生産が始まったとされています(涇陽磚)。
製造の中心は涇陽でしたが、陝西省内だけでは茶葉の量が足りず、四川省など他の地域にも原料茶を求めました。
その原料地の1つとなっていたのが、湖南省益陽市安化県です。
製造されたお茶は、主に少数民族との交易に用いられたようです。

茯磚茶という名前は、まず生葉が夏場の暑い時期(三伏)に摘採されることから「伏茶」と呼ばれ、さらに土茯苓(どぶくりょう)のような薬効があることから転じて「茯茶」とされたと言われています(諸説あります)。

湖南省で茯磚茶が製造されるようになったのは、1943年に湖南省磚茶廠(安化茶廠の前身)で試作に成功したのが始まりです。
新中国成立後、安化の中心的な工場である安化茶廠は主に紅茶を中心に一部、黒茶や烏龍茶を生産する工場として機能してきましたが、1984年頃から黒茶の生産を本格化させました。
以後、民間の黒茶の工場なども生産を再開させ、現在では黒茶の生産量をリードする位置にあります。

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あるきち

湖南省安化県は主力産業があまり無く、長らく貧困県とされていた地域です。が、最近は中国の政策にある”貧困扶助”の流れに乗って、茶業を急拡大させて急速に経済発展を果たしています。浙江省安吉県、福建省安渓県と並んで、茶業で貧困を抜け出した成功例”三安”の1つとされています。

 

安化茯磚茶の定義

安化茯磚茶は、「安化黒茶」の1つの種類として、中国の地理的表示(GI)産品として登録されています。
その品質技術基準によると、茶樹品種は、地元由来の雲台山大葉種、楮葉斉などが指定され、原材料や製造工程についても規定されています(詳しくは後述します)

茯磚茶は、特製茯磚と普通茯磚の2種類があります。
両者は製法的にはほぼ同じですが、原料茶(黒毛茶)のブレンド比率が異なっています。
特製茯磚は、三級黒毛茶(一芽五~六葉がメイン)を主に使用し、普通茯磚は四級黒毛茶(芽の無い葉っぱのみがメイン)を主に使用するという違いがあります。
お茶の茎がかなり成長した段階での茶摘みのため、刃物を使い”摘む”というよりは”刈る”スタイルの茶摘みを行います。

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あるきち

少数民族の方の間では、茯磚茶の良し悪しは金花の量で決まるというような話があるようです。ただ、お茶の品質という観点から行くと、むしろ重要なのは原材料の質だと思います。茶葉が大ぶりだと口当たりは少し硬い印象になり、細かな芽葉が多いと柔らか印象になります。とはいえ、うまみを追求するお茶ではないので、程々の大きさの茶葉で、適正な渥堆や発花をしたものが良いので、メーカーの個性で好き嫌いが出てくるかもしれません。

 

安化茯磚茶の産地

安化茯磚茶を含む、安化黒茶の原産地保護範囲は以下のように指定されています。

湖南省益陽市安化県清塘鋪鎮、梅城鎮、楽安鎮、仙渓鎮、長塘鎮、大福鎮、羊角塘鎮、冷市鎮、竜塘郷、小淹鎮、滔渓鎮、江南鎮、田荘郷、東坪鎮、柘渓鎮、馬路鎮、奎渓鎮、煙渓鎮、平口鎮、渠江鎮、南金郷、古楼郷。桃江県の桃花江鎮、石牛江鎮、浮丘山郷、鸕鷀渡鎮、大栗港鎮、馬迹塘鎮、赫山区の新市渡鎮、泥江口鎮、滄水鋪鎮、資陽区の新橋河鎮などの32の郷鎮が管轄する行政区域。

安化黒茶地理標志保護範囲規定より

湖南省益陽市のほぼ全域(高明郷のみ除外)と、桃江県、赫山区、資陽区の一部からなる地域です。
この地域は山がちでありながら、資水という川があり水運に便利なので、茶葉の原料供給地として発展してきた歴史があります。

 

安化茯磚茶の製法

安化黒茶は、まず原料となる黒毛茶を作るところから始まります。

茶摘みした生葉をまずは、攤放(たんほう)します。
その後、殺青をするのですが、茶葉の水分量が不足している場合は、水をかける「灌漿(かんしょう)」を行って、水分を調整してから殺青します。

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あるきち

殺青は、茶葉に含まれる水分が蒸発して出来る水蒸気が無いと、上手く殺青できないので、水を足すんだね。

次に揉捻を行います。
柔らかい葉っぱは紐状に、硬い葉っぱは折りたたむような形にして、葉っぱの細胞壁を壊して、茶汁をにじみ出させます。
そのあとに、「渥堆(あくたい)」を行います。
具体的には、茶葉をうずたかく1mぐらいの高さに積み上げ、その上に湿った布をかけます。
水分量が足りないときは水をかけることもあります。
次第に茶葉の温度が上がっていき、42~45℃位にまで上昇します。
葉っぱが少し黄色くなり、青臭さが消えて、甘酒のような香りが出てきたら、適正な渥堆です。
渥堆の工程は、時間にして大体18~24時間ぐらいです。

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あるきち

この段階の渥堆では、茶葉の成分はあまり多くは変化していないです。なので、実務上はこの後、蒸気を当てて変化を促したりすることもあるそうです。茯磚茶の場合は、ここでの渥堆が多少足りなかったとしても、この後の発花工程で成分の変化が進むので、他の安化黒茶に比べると味わいがまろやかになります。

渥堆が終了したら、適正発酵のものはもう一度揉捻します(復揉)。
そのあと、伝統的な製法では、安化黒毛茶の独特の設備である「七星竈」というかまどに茶葉を置き、松の木の薪を燃やして、モクモクと煙を立てながら、1~2時間ほど燻すように乾燥していきます。
乾燥できたら、黒毛茶の完成です。これを等級に分けて、原料茶として貯蔵しておきます。

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あるきち

安化黒茶の特徴で、少し松の煙の香りがするんですが、それはこの工程によるものです。茯磚茶は、この後に発花工程があるので、その香りは比較的マイルドになりますが、涇陽茯磚茶など他の茯磚茶と飲み比べてみると、製法の違いがハッキリ分かると思います。

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わかば

なるほど。松の煙が特徴なんですね。

それでは、茯磚茶の製法です。
まず、黒毛茶の原料を等級ごとにきちんと整理します。
その上で、決められたブレンド比率に沿って、等級の違うお茶をブレンドしていきます。

ブレンドした茶葉を蒸気で蒸すことで、水分含有量を増やし、固めやすくした上で、圧力をかけて緊圧します。
この後の発花工程を進める上では、

・水分の含有量を25~30%程度程度に高めること
・緊圧の程度をきつくしすぎず、金花の育つような通気性を残しておくこと

などが重要になります。
発花工程は乾燥を兼ねて行われ、室温と湿度をコントロールした乾燥室の中に入れます。
概ね前半12日間程度で発花を促し、そのあと5~7日をかけて乾燥を進めます。

乾燥室では緊圧したお茶を立てて、2cmほどの隙間を空けて並べていきます。
発花時は室温を28℃前後、湿度を75~85%に調整して、冠突散嚢菌の発生を促します。
乾燥時は室温を30℃~45℃程度まで徐々に上げていき、湿度を50%以下にするように調整します。
原材料の茎の含有量、緊圧の強さ、発花・乾燥時の温度と湿度管理によって、発花の状況は変わるため、厳格にコントロールします。

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わかば

納豆みたいに菌を振りかけるような作り方はしないんですか?

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あるきち

一時、そのような金花菌を振りかける方法というのも試されたそうですが、どうしても味わいが違ってしまうので、今は空気中にいる常在菌を使う製法が多いそうです。当然、工場に住み着いている菌に違いはあると思うので、生産している工場ごとに菌の構成などの違いはあると思いますよ。

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わかば

日本酒が蔵ごとに違う味わいがあるようなものなんですね。

乾燥をさせたら、包装して出荷をします。
もっとも、茯磚茶は出来たての段階では、まだお茶の成分の転化が完了しておらず、出荷後、徐々に味わいがまろやかに変化していきます。
ゆえに、新茶に飛びつくのではなく、出来上がってから少なくとも半年ぐらいが経過してから。
できれば、数年寝かせた方が、味わいがよりまろやかで美味しくなると言われています。

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かおり

日本のお店などでは数年寝かせた茯磚茶を販売しているから、そうしたものを買えば安心ね。

 

安化茯磚茶の特徴

ここまで書いてきた安化茯磚茶の特徴をまとめると、

・煙で燻されて乾燥された、安化黒毛茶を緊圧し、発花という工程を経て作られた、黒茶。
・金花という菌によって後発酵が進んでおり、安化黒茶の中でも、まろやかさが増したお茶。
・工場出荷時点では必ずしも転化が十分に進んでいないので、手元(あるいはお店)で少し置いてから飲みたいお茶。

ということになります。

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あるきち

金花という菌があるので、少し埃っぽい印象を持つことはあるかもしれませんが、意外とクセがなく飲みやすいお茶です。少し冷ましてから飲むと、独特の香りが気にならず、飲みやすいかもしれませんね。

 

安化茯磚茶の淹れ方・飲み方

安化茯磚茶は、寝かせて置いた黒茶ですので、味わいを出すには少し工夫が必要なお茶です。
淹れ方としては、

・茶壺
・蓋碗

で煎を重ねて淹れる方法でも良いのですが、もう1つの方法として、

・ヤカンで煮出す

方法もお薦めできます。

ここではヤカンで煮出す淹れ方をご紹介します。
ヤカンの大きさにもよりますが、1リットルあたり5g程度の茶葉を使います。

まず、緊圧された茯磚茶に、アイスピックや千枚通しのようなものを使って、茶葉を崩します。
茶葉を崩すときは、アイスピックなどを差し込んだら、上に持ち上げるなどして、茶葉を剥がすようにして崩すと良いと思います。

崩した茶葉は、麦茶などを作るときに使うお茶パックに入れます。

ヤカンに水を入れ、お湯を沸かします。
沸騰したらお茶パックに封入した茶葉を入れ、4~8分ぐらい(濃さはお好みで)煮出します。

煮出した後は、お茶パックを取り出します。
すぐに飲んでも良いですが、香りが少し気になる場合は、ちょっと冷ましてから。
夏場は粗熱を取ってから保冷ポットに入れ、冷たくして麦茶感覚で飲むこともできます。

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フーマオ

煮出すと味わいがきちんと出るし、手軽なのでお薦めですよ!

 

安化茯磚茶の保存

安化茯磚茶は、長期保存が可能な黒茶です。
ただし、カビが生えたり、直射日光に当たると劣化して飲めなくなってしまいますので、保存の環境には注意しましょう。

長期保存したい場合は、包装されている紙に包まれた状態のまま、常温で直射日光が当たらず、結露などがない、風通しの良い場所に置いておきます。
また、においの強いもののそばには置かないようにしましょう。

 

安化茯磚茶は、日本で扱っているお店はまだ少ないお茶ですが、黒茶の中では比較的入手しやすいお茶です。
見つけたらぜひお試しください。

 

 

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