木柵鉄観音とはー特徴・定義・産地・製法・淹れ方・飲み方
木柵鉄観音(もくさくてっかんのん)
<木柵鉄観音>
読み : もくさくてっかんのん
中文 : 木柵鐵觀音・木栅铁观音 mù zhà tiě guān yīn
茶類 : 烏龍茶(台湾烏龍茶・半球型包種茶)
産地 : 台湾・台北市文山区
品種 : 鉄観音、金萱、武夷、梅占など
時期 : (春)4月中旬~5月 (秋)10月
茶器 : 蓋碗、茶壺などを推奨
焙煎の効いた伝統茶
大都市・台北でもお茶が生産されています。
その代表的なブランドが木柵鉄観音(もくさくてっかんのん)です。
安渓鉄観音とは何か関係が?
品種や製法は安渓から持ち込まれたものだからね。ただ、その後、安渓鉄観音は清らかな清香タイプが主流になってしまったけれど、台湾の木柵鉄観音は焙煎の強い昔ながらの鉄観音に近い印象です。
となると、台湾の方が伝統をよく守っているということですかね?
それは何とも言えないところ。定義の拡大解釈だったり、製法の簡略化などもどうしても起こっているからね。
木柵鉄観音の定義
木柵鉄観音は、国家による厳密な定義はありません。
概ね共通認識とされているのは、以下のような内容です。
・鉄観音製法で製造された半球型の烏龍茶
・発酵程度は中~重発酵で、焙煎を施したお茶が多め。
ん?中国の安渓鉄観音は、鉄観音品種であることが条件でしたけど・・・
良いところに気がつきましたね。木柵鉄観音は、今や鉄観音品種で作っていないものがほとんどです。鉄観音という名前だから、鉄観音品種だと考えるのは早計だね。
鉄観音という品種は、香りや味わいなどは確かに優れた特性があるのですが、単位面積あたりの産量が少ない、機械摘みに向かない等、生産者泣かせの面もある品種です。
大都市に近すぎる茶産地ゆえに、大規模な茶園が開発できず、観光茶園や農家茶館などとの兼業で生計を立てるしかないという現実の前では、鉄観音から他品種への植え替えはやむを得ない状況だったのだろうと思います。
そのようなことから、現在では金萱などさまざまな品種から、「鉄観音製法で作られた」という意味合いの木柵鉄観音が生産されています。
色々な品種から作るということは、鉄観音から作るものもあるんですよね?そういう木柵鉄観音を引き当てる可能性は無いですか?
鉄観音品種で作った鉄観音には、「音韻」という品種の特徴があり、香りや味わいは非常に良いお茶になります。それはお茶に詳しい人たちはよく知っているので、鉄観音品種から作った鉄観音茶のことは、特に「正欉鉄観音(せいそうてっかんのん)」という名前で呼ばれます。本当の木で作った鉄観音、ぐらいの意味合いかな。
あるんじゃないですか~。やだな~、もう。
その代わり、稀少だということが分かっているから、お値段は大分高いですよ。台湾で生産されている品種の中では、青心烏龍種よりも高い値段がつきます。そんなこともあって、最近は高値で売れるお茶を作りたい高山で鉄観音を植えて、それを木柵に持ってきて焙煎する、というようなお茶も出て来ているぐらいです。
正叢鉄観音は、産量が少ないので、現地でも、かなりこだわりの強いお店に行かないと入手できないお茶です。
一般的に「木柵鉄観音」の名前で売られているものは、鉄観音品種以外で作られた木柵鉄観音であると考えた方が良いでしょう。
鉄観音品種の木柵鉄観音が飲みたい場合は、必ず「正欉鉄観音」と指定してね。
木柵鉄観音の産地
木柵鉄観音の産地は、台北市文山区。
なかでも猫空(マオコン)と呼ばれる地域に集中しています。
木柵鉄観音の生産者の方のほとんどは、この地域に茶園と工房を持ち、ここでお茶の製茶と仕上げ(焙煎)を行っているケースが多いです。
台北に非常に近いことから、1980年代から観光茶園化が始まっていて、農家の一角を開放した農家茶館なども多くあります。台北市内からいちばん身近な茶産地という印象ですね。その分、農家の規模は小さいので、あまり大量生産されるようなお茶ではないですね。
木柵鉄観音の製法
木柵鉄観音は、烏龍茶なので、比較的成熟した茶葉を摘んで作ります(開面採・かいめんさい)。
タイミングにもよりますが、一芽二葉~一芽三葉程度で、葉の規格を揃えて摘みます。
多くは手摘みですが、価格の安いものの中には機械摘みを行うものもあります。
茶摘みをした後、日光萎凋と室内萎凋を行って、水分を減らしながら酵素の活性を高めます。
その後で、做青という工程で、葉っぱの縁の部分を中心に段階的に紅くしていき、狙い通りの発酵程度にします。
そのタイミングで殺青を行い、酵素の働きを止めることで、香りを固定します。
殺青を行ったら、最初の乾燥工程を行います。
その後で、お茶を布で包んで団子状にし、圧力をかけます(団揉)。ある程度圧力をかけたら、解します(玉解き)。
この作業を伝統的には50~60回、現在の機械を使っても30回程度繰り返し、徐々に茶葉を丸めていきます。
何十回も丸めては解すを繰り返していくことで、徐々に丸まった形を作っていきます。伝統製法では熱を加えながら揉捻を行うんだけど、最近は簡素化される方向ですね。
茶葉が丸まったら乾燥させて、荒茶が出来ます。
その荒茶に、時間を置いて何度か焙煎を加えて仕上げていきます。
乾燥も焙煎も以前は炭火でやっていたんですけど、今は電気炉などで焙煎されているケースが増えていますね。茶葉の価格や生産量、兼業というような事情があるので、どうしても手間を省かざるを得ない状況に多くの茶農家さんが置かれてますから。
なかなか複雑な事情がありそうですね。
木柵鉄観音の特徴
ここまで書いてきた木柵鉄観音の特徴をまとめると、
・丸まった形をした焙煎の効いた烏龍茶で、台北市内で生産されている。
・本来は鉄観音品種を用いたものを指していたが、現在は他の品種を鉄観音製法で作っていれば、木柵鉄観音を名乗っている。
・鉄観音品種で作られたものは、正欉鉄観音という名前で呼ばれ、産量は少なく、高価である。
ということになります。
他の品種で作ったお茶は”焙煎した烏龍茶”くらいのイメージなんですが、やはり鉄観音品種で作られたものは、香りと余韻が全く違うので、出来れば同時に飲み比べてみると良いですよ。
木柵鉄観音の淹れ方・飲み方
木柵鉄観音は、香りの高さと味わいの厚みが魅力です。
香りをできるだけ引き出せるよう、
・白磁の蓋碗
・茶壺
を使うと、より美味しく飲めるのではないかと思います。
現地では茶壺で淹れることが多いので、茶壺での淹れ方を大まかにご紹介します。
茶壺の大きさにもよりますが、茶葉の量は5~8g程度。
大まかな目安としては茶壺の底に丸まった茶葉が敷き詰められる程度で、茶葉が広がりきったときに茶壺の蓋に触れるぐらいが適量だと思います。
最初はサッとお湯を通してすぐに茶海にあけてしまい、湯通しをしておくと失敗の確率は低くなると思います。
1煎目は、熱湯をたっぷり注ぎ、茶壺の蓋を閉めるとちょっと溢れるぐらいが適正な湯量です。
茶壺は基本的に満水で使いましょう。空間があると湯温が下がるので、基本は満水です。少し溢れてこぼれても大丈夫なように、下にトレーなどを敷いておきましょう。
木柵鉄観音のようにきつく丸まっていて、焙煎が施されている茶葉は、解けるまで時間がかかります。
概ね1分ぐらい待ち、1煎目を茶海にあけます。茶壺の中には、お湯を残さないよう、しっかりと最後の一滴まで出し切りましょう。
お湯が残っていると、茶葉がずっとお湯に浸かった状態になって、どうしても渋みが出てしまうので、必ず出し切ろう!
2煎目は、茶葉が開いた状態からなので、30秒ぐらいで適正な濃さのお茶になると思います(好みで増減させてください)。
3煎目以降は、徐々に味わいが薄くなっていきますので、1煎ごとに10秒程度長く待って入れるようにしていくと良いでしょう。
一般的な木柵鉄観音は、焙煎の香りが。
正欉鉄観音はそれに加えて、華やかな香りも楽しめると思います。
木柵鉄観音の保存と賞味期限
木柵鉄観音は多くは焙煎したお茶ですので、比較的劣化には強いお茶ですが、開封したら、できるだけ早く飲み切るのが美味しく飲むコツです。
一度開封した袋は、できるだけ中の空気を抜いた上で、きちんと密閉し、直射日光の当たらない冷暗所に保存しましょう。
冷蔵庫などに入れる必要は基本的には無いと思います。
未開封のものであれば、カビなどの異常がない限り、1年以上置いても問題無く飲むことができます。
もっとも酸素に触れすぎると味が落ちてしまいます。
一度開封した袋は、できるだけ中の空気を抜いた上で、きちんと密閉し、直射日光の当たらない冷暗所に保存しましょう。
木柵鉄観音は、鉄観音品種のものとそれ以外の品種では、かなり傾向が違います。
ぜひ飲み比べをしてみてはいかがでしょうか。