武夷岩茶とはー特徴・定義・産地・製法・淹れ方・飲み方

武夷岩茶(ぶいがんちゃ)

<武夷岩茶>
読み : ぶいがんちゃ
中文 : 武夷岩茶 Wŭ yí yán chá
茶類 : 烏龍茶(閩北烏龍茶)
産地 : 福建省南平市武夷山市 ※地理的表示産品
品種 : 肉桂、水仙、大紅袍、鉄羅漢、水金亀 など
時期 : 4月中旬~5月中旬
茶器 : 蓋碗、茶壺などを推奨

 

伝統を誇る烏龍茶

烏龍茶の代表格の1つとして名前を挙げられることが多いお茶が、福建省武夷山市が原産の「武夷岩茶(ぶいがんちゃ)」、通称「岩茶」です。

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あるきち

伝統的には焙煎が強く、細長くよじれた茶葉をしていて、香りも味わいも濃厚なお茶ですね。最近は、発酵や焙煎を軽くして、花のような香りを強調したものも出てきています。伝統的なものは、茶色い水色になるので、日本人がイメージする烏龍茶に近いんだけれど、飲んだら別物と感じるかも。

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わかば

うーん、そう聞くと飲みたくなりますね!

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あるきち

中国では武夷岩茶というジャンル全体の名前よりも、大紅袍(だいこうほう)というお茶の方が有名かもしれない。実際、一番多く販売されているのは大紅袍で、武夷岩茶の代名詞として大紅袍を用いることはよくあるね。

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わかば

あれ?大紅袍は最高級な武夷岩茶だと思っていたんですが・・・

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あるきち

まあ、あとで詳しく説明するけど、日本で知られている武夷岩茶と現地で流通する武夷岩茶の間に、かなりのギャップがあることは確かだね。

 

武夷岩茶の定義

武夷岩茶は、中国の地理的表示(GI)産品として登録されています。
その定義書による、製品の定義は以下の通りです。

武夷山市の行政区域内において、独特な武夷山の自然生態環境の下で適切な茶樹品種を無性繁殖して栽培し、独特の伝統的な加工技術によって製造されたもので、岩韻(岩骨花香)の品質特性を有した烏龍茶。

国家標準『地理的表示製品 武夷岩茶』 GB/T 18745-2006 より

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あるきち

いくつかポイントがあって、まず、武夷岩茶は烏龍茶であるということですね。さらに、品種についてですが、武夷岩茶は色々な品種から作られます。地元由来の品種もあれば、他の産地から持ってくる品種(鳳凰水仙、奇蘭、佛手など)もあり、その品種のバリエーションが魅力の1つです。あとは、岩韻と呼ばれる独特の余韻があることも品質の条件になっています。

虎嘯岩の水仙の茶畑

現在、武夷岩茶は品種による分類をしていて、先程挙げた定義書によると、以下のものがあるとされています。

・大紅袍(だいこうほう)
・名欉(めいそう)
・肉桂(にっけい)
・水仙(すいせん)
・奇種(きしゅ)

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あるきち

武夷山では在来種のことを「菜茶(さいちゃ)」といい、それから作られた製品茶のことを「奇種」と呼びます。「奇種」の中でも、品質が優良で、特別ないわれなどがあるお茶が品種化していくのですが、この品種化したお茶が「名欉(めいそう)」です。名欉で著名なのが、四大名欉とよばれる「大紅袍」「鉄羅漢(てつらかん)」「白鶏冠(はっけいかん)」「水金亀(すいきんき)」。これに「半天腰(はんてんよう)」を加えて五大名欉とされることもあります。

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わかば

奇種は在来種のお茶で、在来種の中のエリートが名欉ということですね。大紅袍と肉桂、水仙はなぜ別扱いなんですか?

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あるきち

まず、肉桂と水仙は、現在、武夷山で生産されているお茶の7割ぐらいを占める主力品種だからだね。肉桂は武夷山が原産の名欉で香りの濃厚なタイプ、水仙は武夷山に導入された品種で味わいの良い品種の位置づけだね。それ以外の名欉、特に四大名欉などは名前は有名だけれども、生産量自体は実はあんまり多くない。

大紅袍の母樹(石垣の中に4本、外に2本)

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わかば

ん?最初に「一番多く販売されているのは大紅袍」って言ってませんでしたっけ?

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あるきち

いいところに気づいたね。大紅袍は実際には2つのパターンがあって、1つは大紅袍の母樹と呼ばれる原木群(かつては4本。現在は6本)があるんだけど、その中の1本を選んで作った品種(大紅袍品種)だけで作ったもの。これを一般には純種大紅袍(じゅんしゅだいこうほう)というね。もう1つは、色々なお茶をブレンドして作ったブレンドティー。これのことを「大紅袍」として販売していて、市場に出回っているのはほとんどこちらだね。商品大紅袍といったりする。

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わかば

大紅袍品種で作ったものと、ブレンドがあるということですね・・・。原木からのものだと思っていたから、ブレンドってなんだかガッカリな気が・・・。

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あるきち

いやいや、そうとも言えないよ。大紅袍の母樹から作った大紅袍は、元々4系統の品種の木から作ったお茶なんだ。さまざまな品種が混ぜ合わさっていることで、複雑な味わいになっていると考えられる。1つの品種だけでは、その味を再現できないから、いくつかの品種をブレンドして、それぞれの生産者が思い思いの大紅袍を作っているということだね。

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わかば

とすると、大紅袍は、最高級な岩茶ではないということですかね?

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あるきち

大紅袍だから最高峰というのは言えないよね。事実、ものすごく安い大紅袍もあるし、ものすごく高い大紅袍もある。それはどんな品質のお茶をブレンドするか次第だから、大紅袍だから最高級とか、水仙だから安いとか、そういうことは言えないんだよね。これは注意した方が良いかも。もっとも、メーカーによっては武夷岩茶の最高峰は大紅袍だと考えて、フラッグシップにしているところもあるかもしれない。

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フーマオ

肩書きだけで人を判断しないのと同じで、名前だけでお茶の良し悪しを判断しちゃダメよ!

 

武夷岩茶の産地

武夷岩茶は地理的表示産品であるため、原産地の保護区域がきちんと定められています。
現在の武夷岩茶の原産地保護地域は武夷山市全域となっています。

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あるきち

書類上は全域になっているけれども、実際は優良なお茶ができる地域とそうでない地域があります。たとえば、正山小種という紅茶の産地である武夷山市星村鎮桐木村は、正山小種の価格が低迷していた時代、岩茶を作るのに挑戦したけれども良い品質のものがどうしてもできなくて、金駿眉という紅茶の開発に向かったということもある。その一方で、独特の環境によって素晴らしいお茶ができるエリアというのもあるんだ。

伝統的に武夷岩茶の品質を決めるものとされてきたのが、産地の違いで、それをよく表す言葉が、「正岩茶(せいがんちゃ)」、「半岩茶(はんがんちゃ)」、「洲茶(しゅうちゃ)」というものです。

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あるきち

正岩茶というのは、武夷山市内の中でも現在、世界遺産に指定された風景区の中にある一部の地域で生産されたお茶のことです。その周辺で作られるものは半岩茶、さらにその外側の地域だったり河のそばなどで作られるお茶を洲茶として区別しています。

慧苑坑の茶園

正岩茶のエリアは本当に狭く、その地域は「三坑両澗(さんこうりょうかん)」あるいは「三坑両澗二窠(にか)」と呼ばれる地域とその周辺のみです。

・慧苑坑(けいえんこう)
・倒水坑(とうすいこう)
・牛欄坑(ぎゅうらんこう)
・流香澗(りゅうこうかん)
・悟源澗(ごげんかん)
・竹窠(ちくか)
・九龍窠(きゅうりゅうか)

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あるきち

これらの場所は武夷山風景区の中でも少し標高が高く、独特の岩山に谷が深く刻まれた地域です。ここでの茶園は、小川が流れる岩山の間の谷の部分に茶園が広がっていて、直射日光に当たる時間が少なく、湿度も高くて水分の供給も十分だったり、茶の生育環境として特に優れた地域なんだよね。だから、味わいに独特の余韻が出てくる。岩韻をもし体感したいとなれば、この地域のお茶を指名買いしたいところなんだけど・・・

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わかば

したいところなんだけど・・・?

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あるきち

産量が限られているので、値段が非常に高い。現地でも1斤(500g)で1500元(約22,500円)以上は覚悟。武夷岩茶の最高級茶として有名な牛欄坑の肉桂(略して”牛肉”)は、1斤10000元(約15万円)はする。それ以下は現地の生葉の取引価格から考えても、ちょっと無理だね。まあ、ブレンドが盛んな土地柄なので、ほんの僅かに”牛肉”入りというお茶はあるかもしれないけど・・・

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わかば

ひえー、100gが現地でも3万円ですか・・・それはちょっと手が届かないですね。正岩茶の下の方だったら、何とか手が届くかな。

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あるきち

岩茶は製法の特徴から値段が高くなりがちなんだけれど、最近は正岩茶エリアの土地利用権の値段もうなぎ登りだからね。資材費や人件費も上がっているし、高くなることはあっても安くなることはないだろうね。とはいえ、こういうお茶でなくても、十分に美味しいのがあるから。正岩茶とか有名産地にこだわりすぎることはないと思うよ。

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かおり

名前だけに振り回されないようにね。

牛欄坑の茶園

 

武夷岩茶の製法・賞味期限

武夷岩茶は、品種にもよりますが、基本的には春のゴールデンウィーク前後の時期に摘まれて、荒茶として生産されます。
その後、焙煎を行っては休ませ、焙煎を行っては休ませ、という期間を経て出荷されます。
伝統的な焙煎程度のものについては、秋の終わり頃~冬に最終焙煎が終わり、翌年の春節(旧正月)から売り出す、というのが一般的です。

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わかば

その年のお茶をその年に飲まないんですか?

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あるきち

伝統的な武夷岩茶はとても焙煎が強いので、焙煎の火の味が消えるまでしばらく置いてから飲むイメージかな。一度、きちんとしたお茶になってしまえば、あとはかなり長期保存も可能だし。ただ、最近出て来ている軽い焙煎のものは、7月か8月には出回るんだけど、これは早めに飲んだ方が良いと思います。

武夷岩茶は、ある程度、成熟した葉を摘みます(開面採)。
武夷岩茶は、発酵焙煎の程度を高め、茎などの除去を行うことと繰り返しの焙煎により葉が崩れる部分も多いため、1斤の製品茶を作るのに大体10斤ほどの生葉が必要だとされています。

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あるきち

他の烏龍茶と比べると倍ぐらいの生葉が必要になるわけで、武夷岩茶が高い一つの原因はこれだね。生葉の原価が高いんだ。

茶摘み後、日光萎凋と室内萎凋を行い、さらに做青機に入れて茶葉を揺すり、発酵を進めていきます。
発酵を適度に行ったら殺青を行い、乾燥すれば荒茶が出来上がります。

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あるきち

荒茶ができたら、茎や黄色くなってしまった葉っぱ(黄片)を取り、炭火で焙煎をして行きます。武夷山の伝統的な火入れは少し強めで、茶葉のギリギリを攻めていく火入れです。一歩間違うと焦げてしまって台無しになるので、この焙煎の技術が重要になります。焙煎は一気に進めるのではなく、一度焙煎をしたら1ヶ月近く休ませることもあります。休んでいる間に、茶葉の中に逃げていた水分が外側に戻ってきて、再度焙煎をかけられる状態になります。

 

武夷岩茶の特徴

ここまで書いてきた武夷岩茶の特徴をまとめると、

・伝統的な製法では火入れが強く、その焙煎技術に特徴がある
・さまざまな品種が用いられており、その品種の違いがバリエーションを生んでいる
・武夷山の中での微妙な産地の違いなどによって、味わいの違いがある
・最近は発酵と焙煎の軽い軽快な武夷岩茶も出てきている

ということになります。

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あるきち

ひとことで武夷岩茶といっても、焙煎の程度や品種の違いによって、味わいは色々なので、飲み比べて好みを見つけるのが良いかもね。

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わかば

武夷岩茶はお茶の種類によって効能は違うんですか?

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あるきち

品種が違うとはいえ、同じチャノキだからねぇ・・・。香り成分のアロマ効果は多少違うだろうけど、成分の大きな違いはそんなにないと思いますよ。

 

武夷岩茶の淹れ方・飲み方

武夷岩茶は香りが命の烏龍茶です。
烏龍茶なので、お湯は熱湯で、できるだけ茶器は予熱をして、熱々の状態で入れるのがオススメです。
茶器としては、

・茶壺
・白磁の蓋碗

が向いていると思います。

現地の茶荘では蓋碗が多め

現地では小さめの蓋碗(満水で110cc程度)を用いることが多いので、その淹れ方をご紹介します。
茶葉の量は5g程度が適量だと思いますが、武夷山に行くと8gぐらいの茶葉を入れることも多々あります。
伝統的な焙煎の武夷岩茶の場合、最初の1煎目は炭の香りが強く残っているので、サラッと流し、飲まないケースが多いです。

2煎目から4煎目ぐらいまでは、火入れの香りが前面に出やすいので、短時間(10秒~20秒)ぐらいでサラサラ淹れていきます。
最初は薄めに感じるのですが、何煎も重ねて飲んでいくことで、だんだんと味わいが舌に蓄積されていき、味わいの余韻を感じることができます。

茶葉の品質によりますが、それ以降のお茶は少し長めに出すと、しばらく味わいを楽しむことができます。
もし3煎目ぐらいから、味わいが急速に落ちる場合は、あまりグレードの高い茶葉ではない可能性があります。
この場合は、茶葉の量を増やして、サッと出す淹れ方をした方が、美味しい部分を上手く引き出すことができます。

茶葉量を少なく(1gや2g)して、長時間の抽出(2分や3分)をすると、火入れの香りが出てしまったり、雑味が勝った味になってしまうので、あまり武夷岩茶の良さを感じられないことが多いと思います。

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フーマオ

岩茶を入れて、苦いとか渋いと思う場合は、温度を下げたりせずに、茶葉の量を増やしてとにかくサッと出すのがオススメだよ

 

武夷岩茶は、お手ごろ価格でも淹れ方次第で美味しくなるものもあります。
正岩や有名産地にこだわると、どうしても高価になりがちなのですが、その分の深みのある味わいが何煎も楽しめるお茶なので、用途に応じて、グレードを選ぶのがお薦めです。

 

 

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