洞庭碧螺春茶とはー特徴・定義・産地・製法・淹れ方・飲み方
洞庭碧螺春茶(どうていへきらしゅんちゃ)
<洞庭碧螺春茶>
読み : どうていへきらしゅんちゃ・ピロチュン
中文 : 洞庭碧螺春 dòng tíng bì luó chūn
茶類 : 緑茶(炒青緑茶)
産地 : 江蘇省蘇州市呉中区の一部地域 ※地理的表示産品
品種 : 地元の在来種および優良品種
時期 : 3月中旬~4月上旬
茶器 : グラス、蓋碗などを推奨
白い産毛に包まれた名茶
中国緑茶の代表格として、名前を挙げられることの多いお茶の一つが江蘇省蘇州市を原産とする「洞庭碧螺春(どうていへきらしゅん)」です。
「洞庭山碧螺春茶」「洞庭碧螺春」のように表記されることもありますし、「碧螺春」のように呼ばれることもあります。
このお茶は指定されている産地も狭く、産量も少ないんだけれど、個性的な外観と香りの豊かさで知られているお茶だね。
茶葉にふわふわしたものがついていますが・・・白カビ、じゃないですよね?
カビているお茶は有害なので、飲ませないよ(苦笑)これは一番茶の新芽の部分に多く見られる産毛(専門用語では「毛茸(もうじょう)」)だね。碧螺春は形を整えていく段階で、産毛を逆立てる工程があるので、緑色(碧)のくるくるとした巻き貝(螺)状の茶葉がふわふわな産毛に包まれるようになります。この産毛の豊富さが、品質の一つの手がかりになるかな。
あはは、そうですよね。カビじゃないですよね。産毛かー。
洞庭碧螺春茶の定義
洞庭碧螺春も、中国の地理的表示(GI)産品として登録されています。
その定義書による、製品の定義は以下の通りです。
地理的表示製品保護範囲内(後述)で、伝統的な茶樹品種あるいは適切な優良品種を繁殖、栽培し、その茶樹から摘み取られた幼く若い芽葉を独特の技術によって加工製造し、“繊細多毫、巻曲呈螺、嫰香持久、滋味鮮醇、回味甘甜”を主要品質特性として有した緑茶。
国家標準『地理的表示製品 洞庭(山)碧螺春茶』 GB/T 18957-2008 より
後半の主要品質特性のところが大事かな。”繊細多毫”というのは、茶葉が細かくて産毛が多いこと。”巻曲呈螺”というのは茶葉がくるっと曲がっていて螺(らせんの巻き貝状)になっていること。ここまでが見た目の特徴で、あとの3つは”新芽の香りが長く続き、味わいはうまみと厚みがあり、戻りの味が甘い”という感じかな。
外観が確かに面白いですね。こういうお茶は見たことなかったです。
碧螺春は産毛が命のところもあって、産毛が多くあるのは春の最初の頃(清明節よりも前)に摘まれたお茶ぐらいまでで、それ以降は碧螺春の名前を冠さず、”釜炒りで乾燥させた緑茶”を意味する単なる”炒青緑茶”の名前で出回るぐらい。価格も10分1ぐらいになって、味わいも繊細でお茶の甘みを味わうというよりは、ご飯のお供に飲みたい感じのざっくりしたお茶になってしまうね。
えー、ということは美味しいお茶が作れるのは本当に僅かな期間だけなんですね。
最近は価格のつかなかった二番茶を使って、碧螺紅茶(へきらこうちゃ)という紅茶を開発していて、ヒット商品になっているよ。
洞庭碧螺春茶の産地
洞庭碧螺春茶は地理的表示産品であるため、原産地の保護区域がきちんと定められています。
地域としては、蘇州市呉中区の中でも、太湖という大きな湖に突き出した、洞庭東山と呼ばれる半島(東山鎮)。
それから、その対岸にある洞庭西山とされる島(金庭鎮)と、より小さな三山島という島などで作られるものとされています。
産地を区別する場合は、洞庭東山碧螺春とか、洞庭西山碧螺春のように書かれることもあるわね。
地理的な特徴としては、ここは標高こそ高くないんだけど、太湖という大きな湖に囲まれた場所で、霧が発生しやすい。直射日光が霧で遮られて、柔らかい日差しの下で育つわけだね。
なるほど。土地の特徴があるんですね。だから地理的表示なんだ。
それから、このへんの茶農家さんの多くはビワやヤマモモ、柑橘類などの果樹栽培も一緒にやっていることが多くて、それが茶園の特徴にもなっているんだ。これを”茶果間作(ちゃかかんさく)”というんだけど、茶園はこんな感じ。
これは果樹園の写真じゃないんですか?お茶の木、あります?
手前とか、大きな木の下の方に背の低いモサッとした木があるでしょ。それがお茶の木。
あー、これですか!これだと、かなり日当たりが悪くないですか?こんな日当たり悪くて美味しいお茶できるんです?
お茶は日当たりが悪い方が渋みも少なく、うまみと甘みの強いお茶になるんだよね。日本でも”かぶせ茶”といって、黒い日除けをかけていることがあったりするけど、あれも原理は一緒。果樹が天然の日除け(シェードツリー)になっていて、しかも果樹も取れるというわけ。
なるほど。お茶がほんの僅かしか取れないのでは、どうやって生活するんだろう・・・と思ったんですが、そういう副収入もあるわけですね。
まあ、その代償として茶摘みの効率が悪かったり、生産量が多くないんだけどね。生産面積も狭くて、産量も少ないので、良い洞庭碧螺春を手に入れるのは、なかなか大変だと思うよ。
洞庭碧螺春茶の製法
洞庭碧螺春茶は、釜炒りで殺青(さっせい)し、釜炒りで乾燥させる、炒青(しょうせい)緑茶と呼ばれるタイプの緑茶です。
碧螺春の特徴は、茶摘みの段階から始まります。一番茶を用いて作る高級碧螺春は、とにかく細かな芽の部分を使うので、1斤(500g)のお茶を作るのに、小さな新芽が約6~8万個必要だといわれています。
50gを作るだけでも、6~8千個の茶摘みが必要ということですね。果てしない・・・
碧螺春が大変なのは、ずっと釜炒りをするので、攤放(たんほう)をしている間に、葉っぱの選別や無駄なものを取り除く作業(揀剔・かんてき)をする必要があります。ちょっと面倒だけど、茶葉が部分的にでも焦げてしまうと焦げた香りのお茶になってしまうので、手を抜けない工程だね。
このあと、高温の釜に入れて釜炒りをします。
殺青が終わったら、釜の温度を低くして乾燥させながら、丸めていきます。
ある程度、乾燥が進んだら、団子状に丸め、丸めた団子同士をこすり合わせて、産毛を立ち上げていきます(搓団顕毫・さだんけんごう)。
そのまま釜の中で乾燥を行い、荒茶の完成になります。
ずっと釜の中で炒り続けているんですね。
やはりこの熱が加わることで、碧螺春は香りが高くなるようだね。機械で炒るものも出ているんだけど、香りの出方が手炒りのものとは違うみたいで、メーカーの中には手炒りにこだわっているメーカーもあるね。
やっぱりお値段も高いんですかね?
碧螺春の少しフルーティーな香りの良さが分かるものとなると、1斤(500g)で数万個の茶葉を使う、かなり繊細な茶摘みが必要になるね。そのくらいのグレードだと、現地でも1斤2000元(約3万円)はすると思うよ。
なかなか高級ですね。。。
西湖龍井茶ほどではないにしても、知名度が高くて、それでいて産量の少ないお茶だからねぇ。うまみも強くて、香りも良いので、焦げ臭もなく品質の良いものに当たると、本当に美味しいお茶だと思うね。
洞庭碧螺春茶の特徴
ここまで書いてきた洞庭碧螺春茶の特徴をまとめると、
・巻き貝のような形をし、ふわふわの産毛が表面を覆っている。
・繊細な新芽を使ったお茶でうまみや甘みが豊富。香りも豊か。
・産地が限られており、生産時期も短いので、稀少茶。
ということになります。
なかなか良いものを見つけるのが難しいのですが、美味しいものは本当に美味しいので、是非お試しを。
洞庭碧螺春茶の淹れ方・飲み方
洞庭碧螺春茶は、とてもかわいらしい新芽が綺麗な形で戻り、目でも楽しめるお茶です。
そうした姿を愛でられるよう、
・ガラスの器(グラス、ピッチャー)
・白磁の蓋碗
などを使うと、より映えるのではないかと思います。
洞庭碧螺春の場合、淹れる際に気をつけた方が良いことがあります。
それは、茶葉が繊細であるため、上からお湯を当てる淹れ方では、茶葉に水圧が掛かることによって、えぐみなどが出やすくなります。
そうなると甘みやうまみを活かしきることができないため、茶葉に圧力が掛からないような淹れ方を行った方が良いと思います。
そのやり方が、「上投法(じょうとうほう・うえなげほう)」と呼ばれるものです。
これは先にお湯(80~90℃)を器に入れ、茶葉をあとからお湯の中に入れていく方法です。
産毛がついて締まっている茶葉なので、お湯に落とすと、スーッと茶葉は下に沈んでいきます。
龍井茶と比べると、茶葉がすぐに沈んでくれるので、こちらの方が飲みやすいかもしれないね。新茶だと、かわいらしい緑の新芽が見えて、春を感じさせるお茶だと思います。
お湯が3分の1ぐらいまで飲んだら差し湯をしていくようにすれば、味がなくなるまで飲むことができます。
もし、濃すぎたらお湯を足せば良いし、薄すぎたら時間を少し待つか、茶葉を足せばOK。茶葉は器のサイズにもよるけど、1~2gで十分だと思うよ。
洞庭碧螺春茶の保存
洞庭碧螺春茶は緑茶なので、フレッシュなうちに飲み切りたいお茶です。
開封したら、できるだけ早く飲み切るのが、緑茶を美味しく飲むコツです。
一度開封した袋は、できるだけ中の空気を抜いた上で、きちんと密閉し、直射日光の当たらない冷暗所に保存しましょう。
碧螺春は産毛のふわふわも魅力なので、袋にできるだけ余分な力が掛からないように、袋ごと缶に入れておくと安心かな。
長期保存したい場合は、封を切らない状態にして冷蔵庫や冷凍庫に入れておくと、色や味を比較的長く保つことが出来ます。
ただし、冷蔵庫や冷凍庫に入れたお茶は一度出したら、冷蔵庫・冷凍庫には戻さない方が良いです。
結露が起こって、お茶が台無しになることも多いからです。また、においの強いもののそばには置かないようにしましょう。
できるだけ1年以内に飲んでね。
安い碧螺春の中には、原産地である蘇州産では無いものもあるので、あまりに安すぎる場合や、緑色が強すぎる場合はちょっと注意してみてくださいね。
美味しい洞庭碧螺春を見つけられますように。