安渓鉄観音とはー特徴・定義・産地・製法・淹れ方・飲み方
安渓鉄観音(あんけいてっかんのん)
<安渓鉄観音>
読み : あんけいてっかんのん
中文 : 安溪铁观音 Ān xī tiě guān yīn
茶類 : 烏龍茶(閩南烏龍茶)
産地 : 福建省泉州市安渓県 ※地理的表示産品
品種 : 鉄観音
時期 : (春)4月下旬~5月 (秋)10月
茶器 : 蓋碗、茶壺などを推奨
日本でも知名度の高い烏龍茶の代表格
日本でも知名度の高い烏龍茶である、鉄観音(てっかんのん)。
その中国でのトップブランドが安渓鉄観音(あんけいてっかんのん)です。
鉄観音は聞いたことがあります。
多分、日本人が知っている鉄観音と今、中国で主流の鉄観音はイメージが違うかもしれません。
安渓鉄観音の定義
安渓鉄観音は、中国の地理的表示(GI)産品として登録されています。
その定義書による、製品の定義は以下の通りです。
福建省泉州市安渓県内の自然生態環境の下で、鉄観音茶樹品種を挿し木して繁殖、栽培、茶摘みし、伝統的な加工技術に則って製造されたもので、鉄観音の品質特性を有した烏龍茶。
国家標準『地理的表示製品 安渓鉄観音』 GB/T 19598-2006 より
茶樹品種については、鉄観音種となっていますが、鉄観音種の中でも複数の亜種があります。
その中でも、もっとも正統な品種とされているのは、紅芯歪尾桃鉄観音です。
中国の基準では、安渓鉄観音は必ず鉄観音品種であることが求められています。鉄観音品種由来の独特の余韻を「音韻(おんいん)」といい、品種判定の一つの目安になるね。鉄観音品種の原産地は安渓県内の西坪(にしつぼ)鎮にあります。
音韻ですね。飲んだら分かるかな?
安渓の他の品種で作られたお茶と一緒に飲み比べると、違いが分かってくると思いますよ。あと、大事なことがあって、安渓鉄観音には大まかに3つの製品タイプがあります。それも定義書に書いてあるんだけど、以下の通りです。
清香型(せいこうがた・チンシャンがた)鉄観音 | 外観が緑色、水色は緑色で、清らかな香りのもの(仕上げに焙煎を行わず乾燥のみ) |
濃香型(のうこうがた・ノンシャンがた)鉄観音 | 外観が黒っぽく、水色は茶色で、香りが濃郁なもの(焙煎で仕上げを行うもの) |
陳香型(ちんこうがた)鉄観音 | 5年以上の貯蔵を経た、陳香(古びた香り)のあるもの |
おそらく、日本で知られている安渓鉄観音の多くは茶色っぽい濃香型なんだけど、今、生産されている安渓鉄観音の多くは緑色の清香型なんだよね。現地に行って、何も言わずに安渓鉄観音ください、といったら緑色の清香型が出てくる。中国の南の方(広東省や香港、マカオなど)に行くと、焙煎タイプのお茶が出てくるんだけどね。ここ20年ほどの流行は清香型に偏っているね。
私の知っている鉄観音と違いますね。。。台湾の高山烏龍茶みたい。
台湾の高山茶あたりの影響は受けていると思うね。中国は全体で見ると緑茶を飲み慣れている人の方が多いんで、焙煎系のお茶は苦手という方も多いんだけど、このタイプのお茶だと飲むのに抵抗がないということと、烏龍茶ならではの香りの高さが楽しめるので、このお茶で全国に一気に広まったんだよね。
清香型と濃香型を並べて飲み比べてみたいですね。
最近のトピックスとしては、陳香型というお茶だね。鉄観音を寝かせたもので、昔は老茶とか陳年茶とか言われていたものなんだけど、何年寝かせれば良いか、というのは規定が無かったんだよね。ところが2016年に決まりが出来て、”5年以上寝かせたもの”というところに線が引かれたんだ。2016年のルール改定を見越して仕込んでいるお茶が、5年経って、そろそろ市場に潤沢に出回るようになると思うよ。
寝かせると良いことがあるんですかね?
基本的には濃香型のお茶が原材料になるんだけど、お茶に含まれる刺激物が少なくなって、口当たりが柔らかくなる、と言われるね。昔は民間医療として、体調が悪いときに寝かせたお茶を薬がわりに飲ませていたらしいんだ。そういう身体にやさしいということから、年輩の方が飲むのにも適している、と。
うーん、これも試してみたいですね。
安渓鉄観音の産地
安渓鉄観音は地理的表示産品であるため、原産地の保護区域がきちんと定められています。
原産地は、福建省泉州市安渓県の行政区域内とされています。
安渓県の面積は、かなり広くて3057.28㎢(安渓県Webサイトより)。日本の九州に置き換えると、大分・熊本・宮崎・鹿児島を合わせたぐらいの大きさだね。
県と言っても、かなり大きいんですね。日本の1つの県ぐらいのイメージかと思っていました・・・
そう、かなり広いんだよね。そんなこともあって安渓県の中でも、茶の産地として良好なお茶が出来る地域もあれば、それほどでも・・・という地域もあるね。良く言われるのは、安渓県というのは西部の方が標高が高くて、東部の方が低い。西高東低なので、西側の比較的標高の高い地域を「内安渓(うちあんけい)」、東側の標高の低い地域を「外安渓(そとあんけい)」というふうに呼ぶことが多いかな。
西高東低って、冬型の気圧配置みたいですね。イメージしやすいですけど。
内安渓には、原産地である西坪鎮だったり、あとは比較的メジャーな産地である祥華(しょうか)郷、感徳(かんとく)鎮といった地域があったり、最近、名前を挙げてきている龍涓(りゅうけん)郷などが有名な産地だね。特に、祥華と感徳は、この地名を冠したお茶も出ているので、知っておくと良いかも。
祥華と感徳ですね。標高という話がありましたけど、安渓鉄観音も標高が高い方が良いとかあるんですか?
台湾の高山茶と一緒で、標高は品質に関係してくるね。やはり標高の高いところで育ったお茶の方が、味わいの透明感や深みなどは先天的に有利な印象だね。もちろん、茶園の状態だとか製茶時の天候とかで、ひっくり返ることあるので、標高=品質というわけではないけれど。
内安渓と呼ばれる北西部の平均標高は700mで、1000m以上の高山が2461座あります。もっとも最高峰でも1600m程度なので、台湾の高山茶ほどの標高ではないのよ。(参考:安渓県Webサイト)
県庁所在地のあたりは標高が低く、今では高層マンションなども建ち並ぶ都会の雰囲気を見せています。
元々は、山がちで産業に恵まれない地域だったのですが、安渓鉄観音が全国的な名茶として知られるようになるにつれ、急速に豊かになっています。
県の中心部には「中国茶都」というお茶の取引市場があり、数百軒の茶問屋が軒を連ね、茶農家が茶葉を持ち込む交易市場も整備されています。
安渓鉄観音の製法
安渓鉄観音は、烏龍茶なので、比較的成熟した茶葉を摘んで作ります(開面採・かいめんさい)。
タイミングにもよりますが、一芽二葉~一芽四葉程度で、葉の規格を揃えて摘みます。
多くは手摘みですが、価格の安いものの中には機械摘みを行うものもあります。
茶摘みをした後、伝統的な作り方では日光萎凋と室内萎凋を行って、水分を減らしながら酵素の活性を高めます。その後で、做青という工程で、葉っぱの縁の部分を中心に段階的に紅くしていき、狙い通りの発酵程度にします。そのタイミングで殺青を行い、酵素の働きを止めることで、香りを固定します。
伝統的、ということは違う作り方もあるんですか?
最近の流行ということで行くと、清香型は特に発酵が軽くなっています。以前は烏龍茶の発酵程度は”三紅七緑”と言われるように、縁の部分が3割ぐらい紅くて、真ん中の部分に7割くらい緑が残っているのが理想とされていました。が、今はほんの僅かに縁が紅くなる程度で止めるので、”一紅九緑”ぐらいにするんだ、と言われます。あとは効率の面などを考慮して、日光萎凋を行わずに空調の効いた部屋に入れる室内萎凋のみで作るタイプのお茶(空調茶)というのも出ています。
その新製法の品質はどうなんですか?
正直、好みによるので、何とも言いがたいね。最近は清香型の鉄観音でも製法(做青の度合いと殺青のタイミング)によってさらに細分化されていて、正味(正韵)・消青(鮮香)・拖酸(酸香)なんていうタイプに分けるんで、現地に行く人なら知っていても良いかも。日本ではあまり清香型が人気がないのと、清香型は足が早い(劣化スピードが速い)ので、あまり良いのに当たることは少ないしね。ものすごい香りの高さなんだけどね。
うーん、清香型の凄いのも飲んでみたいですね。
殺青をした後に、茶葉を布にくるんで大きな団子状にし、そこに圧力を加えながら、揉み込んでいきます。ある程度揉んだら解し、揉んだら解し、を繰り返していくと、徐々に茶葉にくせがついて丸まっていきます。そうなると、荒茶(中国語で毛茶)の完成ですね。荒茶はこんな感じ。
この時点では茎が残っているんだけど、仕上げの段階で茎を全部取ります。茎を取った後に、ブレンドしたりして、清香型の場合は乾燥、濃香型の場合は焙煎を施して、製品茶の出来上がりです。
茎はどうやって取るんですか?
基本、手作業だね。だいたい、農家さんとか問屋さんがやってて、子供とかもよく手伝っているよ。
安渓鉄観音の特徴
ここまで書いてきた安渓鉄観音の特徴をまとめると、
・丸まった形をした烏龍茶で、清香型(清らかな香り)・濃香型(火の入った甘い香り)・陳香型(古びた香り)の3種類がある
・鉄観音品種を用いていることで、独特の余韻である「音韻」がある。
ということになります。
おそらくみなさんの鉄観音のイメージは茶色いお茶だと思いますが、それも美味しいんですけど、清香型の甲高い香りはインパクトがあるので、上質で新鮮な清香型の鉄観音も飲んでいただきたいな、と思います。
安渓鉄観音の淹れ方・飲み方
安渓鉄観音は、やはり香りの高さと味わいの厚みが魅力のお茶です。
烏龍茶はやはり香りが命なので、できるだけその特性を活かせるよう、
・白磁の蓋碗
・茶壺
を使うと、より美味しく飲めるのではないかと思います。
現地では蓋碗で淹れることが多いので、蓋碗での入れ方を大まかにご紹介します。
茶葉の量は、茶葉が開ききったときに蓋碗の蓋を少し押し戻すぐらいの量を入れた方が、美味しくいただけることが多いと思います。
110cc程度が入る小さな蓋碗であれば、5g程度。現地では7~8g(小分けになっているパック1つ全部)を入れてモリモリになります。
茶葉を入れたら、茶葉と茶器の予熱の意味を兼ねて、蓋碗の半分ほどにお湯を注ぎ、すぐに流します(温潤泡・おんじゅんほう)。
茶葉に一度湯を通すことで、お湯の浸透をスムーズにし、1煎目から味わいを抽出しやすくします。
一呼吸ほど置いてから、1煎目のお湯を8分目ぐらいまで注ぎます(なみなみに注ぐと熱いので)。
もしお湯を入れすぎてしまったら、表面に浮いた泡を蓋碗の蓋で除けながら、少し茶盤にこぼして量を調整します。
蓋をして20~30秒ぐらい待ち、1煎目を茶海に注ぎます。
1煎目を出すタイミングは、丸まった状態の茶葉がある程度解け、お茶の色が出てきてからにすると良いと思います。
白磁の蓋碗は、その様子を見やすいのでオススメです。
2煎目以降は、茶葉量が多い場合は、お湯を注いだら10~20秒ぐらいでサッと出すだけでも、味と香りが出てくると思います。
4煎目ぐらいからは、味が淡くなっていきますので、10秒ぐらいずつ長く置くようにし、香りと味わいがなくなるまで飲めます。
安渓鉄観音の保存と賞味期限
安渓鉄観音はタイプにより保存方法や賞味期限が異なります。
清香型の安渓鉄観音は、緑茶に近い性質を持っており、開封したら、できるだけ早く飲み切るのが美味しく飲むコツです。
一度開封した袋は、できるだけ中の空気を抜いた上で、きちんと密閉し、直射日光の当たらない冷暗所に保存しましょう。
7~8g程度の小分けになっているものは、1回で使い切るか、2回に分ける場合でも早めに飲み切るようにしましょう。
長期保存したい場合は、封を切らない状態にして冷蔵庫や冷凍庫に入れておくと、色や味を比較的長く保つことが出来ます。
焙煎の効いた濃香型の安渓鉄観音や陳香型の安渓鉄観音は、比較的日持ちのしやすいお茶です。
未開封のものであれば、カビなどの異常がない限り、1年以上置いても問題無く飲むことができます。
もっとも酸素に触れすぎると味が落ちてしまいますので、一度開封した袋は、できるだけ中の空気を抜いた上で、きちんと密閉し、直射日光の当たらない冷暗所に保存しましょう。
清香型は半年~1年を目処に。濃香型や陳香型は密封してあるものならば寝かせることも出来るし、開封したものでも密封をしっかりすれば日持ちしやすいよ。
烏龍茶の醍醐味である香りと味わいを堪能できる安渓鉄観音、是非お試しください!