九曲紅梅茶とはー特徴・定義・産地・製法・淹れ方・飲み方

九曲紅梅茶(きゅうきょくこうばいちゃ)

<九曲紅梅茶>
読み : きゅうきょくこうばいちゃ
中文 : 九曲红梅茶 jiŭ qū hóng méi chá
茶類 : 紅茶(工夫紅茶)
産地 : 浙江省杭州市西湖区 ※地理的表示産品
品種 : 鳩坑種、龍井43 など
時期 : 4月上旬~5月下旬
茶器 : 蓋碗、茶壺、グラスなどを推奨

 

浙江省の紅一点

多くの緑茶を生産している浙江省の中で、著名な紅茶として知られているのが「九曲紅梅茶」です。
茶葉は曲がった形をしており、渋みも少ない紅茶です。

九曲紅梅茶の「九曲」という名は、福建省武夷山にある九曲渓に由来すると言われています。
現地での言い伝えでは、太平天国の乱(1851~64年)に参加するため、武夷山に居住していた人々が浙江省杭州市の山あいに移り住み、その時に武夷山で作られていた紅茶の製法をもたらした、とされています。
九曲紅梅茶の製法を見ると、非常に古い時代の製茶法と感じられる部分がかなり多くあり、この説は概ね正しいのではないかと考えられます。

 

九曲紅梅茶の定義・産地

九曲紅梅茶は、中国の地理的表示(GI)産品として登録されています。
その定義書による、製品の定義は以下の通りです。

杭州市西湖区の管轄する地域内で栽培生長した九曲紅梅に適した茶樹品種の芽葉を原料とし、伝統的な萎凋、揉捻、発酵、乾燥工程を採用して、当地で加工製造された巻曲形の工夫紅茶。

業界標準『九曲紅梅茶』 GH/T 1116-2015 より

生産地域は浙江省杭州市西湖区と限定されていますが、より正確に言うと、正統な九曲紅梅茶を生産している地域は、西湖区の中でも南西部にある霊山洞という鍾乳洞の近くにある村々に限られています。
この地域は杭州の中でも山あいの集落というイメージの地区であり、武夷山から集団移住してきた人々は、このあたりに定住したようです。
そして、製茶の方法は一子相伝で伝わってきているため、この地域の茶農家しか九曲紅梅茶の製法は広まっていません。

産地の1つ・双霊村の茶園

https://teamedia.jp/wp-content/uploads/2020/03/arukichi.gif
あるきち

西湖区原産ということで、西湖龍井茶の夏のお茶を九曲紅梅茶にするという説が出回っていますけど、これはちょっと疑わしいですね。龍井村など、西湖龍井茶をメインに作っている地区(一級保護区)の茶農家さんは、基本的に紅茶の製法は知らないのです。最近になって龍井村などでも紅茶を作る茶農家が出てきていますが、その製法は九曲紅梅茶とは違うものです。

https://teamedia.jp/wp-content/uploads/2020/03/wakaba.png
わかば

西湖区だからといって一緒では無いということですね。

https://teamedia.jp/wp-content/uploads/2020/03/arukichi.gif
あるきち

もっとも、九曲紅梅茶を作っている村々も西湖龍井茶の産地(二級保護区)なので、この地域でも一番茶は値段の高い西湖龍井茶をつくり、二番茶で九曲紅梅茶を作るという人たちはいます。西湖龍井茶で著名な名産地とされるところの九曲紅梅茶というのは、無いですよ、ということです。

 

鳩坑種

九曲紅梅茶に用いられる品種は、現地で「老茶樹」という名で呼ばれている在来種の鳩坑種です。
ただ、最近は西湖龍井茶の単価が上がっていることから、そちらを優先するために鳩坑種から龍井43などの品種に植え替える動きが出て来ています。

https://teamedia.jp/wp-content/uploads/2020/03/arukichi.gif
あるきち

西湖龍井茶は品種の限定があり、龍井在来種、龍井43、龍井長葉のいずれかの品種で無いといけないので、鳩坑種で作ったものはただの「龍井茶」になってしまうので、ブランド力が一気に落ちてしまうからだね。収入を確保しようとすれば、龍井43を植えるのは納得できますよ。

https://teamedia.jp/wp-content/uploads/2020/03/wakaba.png
わかば

それは九曲紅梅茶的にはどうなんですか?

https://teamedia.jp/wp-content/uploads/2020/03/arukichi.gif
あるきち

好ましくはないね。というのは、龍井43で作った九曲紅梅茶は、あまり美味しくないんだよね。葉っぱの強度や成分などが九曲紅梅茶の伝統製法と合っていないようで。そういう状況なので、伝統の九曲紅梅茶は消えてしまうかもしれない・・・という瀬戸際にありますね。

https://teamedia.jp/wp-content/uploads/2020/03/kaori.png
かおり

そうならないように、地元では九曲紅梅茶の博物館を作ったり、観光誘致を行ったりして、色々な取り組みを行っているわ。

 

九曲紅梅茶の製法

九曲紅梅茶は、工夫紅茶に分類され、揉み込みで発酵させていく紅茶です。
ただし、その伝統製法は非常にクラシカルな製法です。

一芽二葉の生葉

まず、茶摘みですが一芽一葉~三葉ぐらいまでで茶摘みを行います。
茶摘み後、冷暗所で12時間以上置き、青みを抜きます(陰攤)。

水分を飛ばした後、萎凋に入りますが、伝統的な九曲紅梅茶の製法では日光萎凋を行います。
1~2時間ほど、時折ひっくり返しながら萎凋し、水分を3分の1程度飛ばしたら、室内に取り込みます。

https://teamedia.jp/wp-content/uploads/2020/03/arukichi.gif
あるきち

必ず日光萎凋をする紅茶というのは、世界的にも珍しい部類だと思います。天候が悪いと製茶できないわけで、産業化は難しくなりますからね。

萎凋した葉を少し冷ましてから、むしろに広げて揉み込みます。
その後、さらに布の袋に入れて、茶葉を団子状にして、足で揉み込んでいきます。

https://teamedia.jp/wp-content/uploads/2020/03/wakaba.png
わかば

足で揉み込むんですか!

https://teamedia.jp/wp-content/uploads/2020/03/arukichi.gif
あるきち

最近は、機械を導入しているところもあるけどね。機械が無かった時代に力をかけるとしたら、体重を乗せられる足だったんだろうね。このとき茶葉を団子状にするので、九曲紅梅茶の外観は曲がった形になるんだね。

揉捻した葉っぱを解して、日光に当たっているむしろの上に広げます。
そこで30分ほど日光に当て、茶葉を温めます。
そのあと袋に詰めて、2時間ほど蒸らすようにして発酵させます。

https://teamedia.jp/wp-content/uploads/2020/03/arukichi.gif
あるきち

袋に詰めて蒸らすという方法は、台湾の東方美人茶などにも残っている発酵の方法です。東方美人茶の作り方は古いスタイルの烏龍茶の作り方だと言われているので、おそらく昔の武夷山では、この方法で発酵させていたんだろね。この地域は、製茶に関して外部との交流があまり無く、それがそのまま残っているんだろうと思います。この製法は、生きた化石みたいなものです。

発酵が完了したら乾燥です。
乾燥方法は伝統的には天日に晒して発酵をさせるというもので、最近は機械で乾燥させることもあります。

https://teamedia.jp/wp-content/uploads/2020/03/arukichi.gif
あるきち

こんなふうにとにかく太陽光を使って製茶をするという方法なんだよね。天候の影響を受けやすいお茶だね。現代的な紅茶の作り方からすると、ちょっと信じられないんだけれど、そういう製法で作られるのが伝統的な九曲紅梅茶。一般的な紅茶よりも、発酵は軽めに仕上がって、どことなく青さや酸味を感じるところも。そのへんが梅っぽいという人も出てくるゆえんだと思います。

https://teamedia.jp/wp-content/uploads/2020/03/wakaba.png
わかば

あまり他には無い製法の紅茶なんですね。

 

九曲紅梅茶の特徴

ここまで書いてきた九曲紅梅茶の特徴をまとめると、

・浙江省杭州市西湖区の一部地域に住む、武夷山ゆかりの人の子孫たちが作っている紅茶。
・伝統的な製造方法は、かなり独特で太陽とともに作る、クラシックなお茶。
・現在は伝統的な品種の植え替えなどの転換期に差し掛かっている。

ということになります。

https://teamedia.jp/wp-content/uploads/2020/03/arukichi.gif
あるきち

伝統製法で作られた九曲紅梅茶はとても控え目で、渋みも少なく飲みやすいお茶なので、そういうお茶をぜひ飲んで欲しいですね。

 

九曲紅梅茶の淹れ方・飲み方

伝統製法で作られた上質な九曲紅梅茶は、煎が効くタイプの紅茶ですので、

・茶壺
・蓋碗

などを使って、何煎もじっくり楽しみたいお茶です。
また、産地などでは渋みが出にくいという長所を物語るように、グラスにそのまま茶葉を入れて飲むスタイルもあります。

https://teamedia.jp/wp-content/uploads/2020/03/arukichi.gif
あるきち

九曲紅梅茶は少し味わいが出てくるのがスロースターターなので、この淹れ方だと、差し湯を何度かしていくうちにグンと味と香りが増していきますよ。

今回は小ぶりの蓋碗(110cc程度)を使った淹れ方をご紹介します。
蓋碗をお湯で温めたあと、茶葉を3.5~5g程度入れます。

お湯の温度は90度ぐらいにし、1煎目はお湯を注いだら、30秒程度で茶海にあけます。
伝統製法の九曲紅梅茶は、機械の揉捻よりも軽く仕上がっているため、味わいが出てくるのがゆっくりです。
煎を重ねていくと徐々に個性が出てくるので、少しゆっくりと楽しみたいお茶です。
2煎目以降は味わいを見ながら、少しずつ時間を延ばしていきます。

https://teamedia.jp/wp-content/uploads/2020/03/fumao.jpg
フーマオ

渋みはあまり出にくいお茶だけど、サラッと飲めるぐらいの濃さで淹れるのがお薦めだよ。

 

九曲紅梅茶の保存

九曲紅梅茶は紅茶であり、セオリーとしては新鮮なうちに飲んだ方が良い、ということになります。
が、少し寝かせておくことで味がまろやかになるものもあり、密封をきちんと行えば、比較的ゆっくりと飲めるお茶だと思います。

https://teamedia.jp/wp-content/uploads/2020/03/arukichi.gif
あるきち

出来たてのフレッシュ感も捨てがたいけれど、新茶のうちは少し青っぽい香りが残っていて、それが少し雑味に感じられることもあります。しばらく寝かせておくと、その嫌な部分がなくなり、角が取れたような円い味わいになることもあります。寝かせたい場合は、未開封のものを寝かせるか、小分けにしておくことをお勧めします。

開封したら、できるだけ早く飲み切るのが、お茶を美味しく飲むコツです。
一度開封した袋は、できるだけ中の空気を抜いた上で、きちんと密閉し、直射日光の当たらない冷暗所に保存しましょう。

長期保存したい場合は、封を切らない状態にして、結露などが発生しない冷暗所で常温保存します。
直射日光を避け、周囲ににおいの強いものなどを置かないように注意しましょう。

 

九曲紅梅茶は、一般的にイメージされる紅茶のようにクッキリとした渋みやうまみなどがあるタイプの紅茶ではありません。
しかし、穏やかで飲み続けやすいタイプの紅茶だと思います。
伝統製法の九曲紅梅茶は、杭州市内でも買い求めることがなかなか困難なお茶でもありますので、見かけたらぜひ試してみてください。

 

関連記事