祁門紅茶とはー特徴・定義・産地・製法・淹れ方・飲み方

祁門紅茶(きーまんこうちゃ)

<祁門紅茶>
読み : きーまんこうちゃ・きーむんこうちゃ
中文 : 祁门红茶 qí mén hóng chá
茶類 : 紅茶(工夫紅茶)
産地 : 安徽省黄山市祁門県および近隣の伝統産地 ※地理的表示産品
品種 : 祁門櫧葉種および安徽1号、安徽3号などの優良品種
時期 : (春)3月下旬~4月下旬
茶器 : 茶壺、蓋碗、ガラスなどを推奨

 

日本における中国紅茶の代表格

日本で中国紅茶の代表格として名前を挙げられることが多いお茶が、安徽省を中心に生産されている「祁門紅茶(きーまんこうちゃ)」略して「祁紅」です。

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あるきち

誰が言ったのかは知らないですが、世界三大紅茶ということでスリランカのウバ、インドのダージリン、そして中国の祁門紅茶というのが挙げられているのが大きいかもね。1875年前後に作られた比較的新しいお茶ですが、サンフランシスコで開かれたパナマ万博で金賞を受賞したり、中国紅茶の筆頭ブランドになっていた時代も長かったこともあると思います。紅茶専門店ではkeemunという綴りでキーマンとかキームンという名前で並んでいるかな。中国語だと祁門は「チーメン(Qímén)」という発音になるんだけど。

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わかば

キームンという名前は紅茶屋さんで見たことがありますね。

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あるきち

祁門紅茶は、比較的知られているようでいて、あまりちゃんとした情報が伝わっていないかな、と感じることも多いお茶だね。

 

祁門紅茶の定義

祁門紅茶は、中国の地理的表示(GI)産品として登録されています。
その定義書による、製品の定義は以下の通りです。

安徽省祁門県を核心産地(後述)とし、祁門櫧葉種(きーまんしょようしゅ)およびこれらの中から選抜育成された無性系の品種を主とした茶樹品種の生葉を原料とし、伝統的な技法と特有の技法に則って製造され、“祁門香(きーまんこう)”の品質特性を有する紅茶。

安徽省地方標準『地理的表示製品 祁門紅茶』 DB34/T 1086-2009 より

祁門紅茶の品質のポイントになるのは、”祁門香”です。
この祁門香とは何か?についても、定義書で定義されています。

3.1 祁門香 keemun sweet candy scent

祁門紅茶の特有の香型で、ゲラニオール、ベンジルアルコールとフェネチルアルコールを特徴的な香気成分としたもので、花香、果香と蜜糖香などの独特な風味の香型。

安徽省地方標準『地理的表示製品 祁門紅茶』 DB34/T 1086-2009 より

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あるきち

祁門紅茶の特徴とされている「祁門香」は、英訳のsweet candy scentが文字通りで、”甘い 糖蜜のような 香り”のこと。バラ(ハマナス)の花、りんご、糖蜜というような言葉で表現されることが多いかな。もっとも、この祁門香は全ての祁門紅茶にあるわけではなくて、一定のランク以上のものにあるもの。下のランクだと甘い香りだけだったり、もっと下のランクだと火入れの味だけになったり。

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わかば

紅茶の専門店とかのサイトで見ると、キーマンの特徴はスモーキーと書いてあったりするんですが・・・

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あるきち

うーん、中国紅茶はインドやスリランカの紅茶と比べると、人件費の構造が違うので、高いんだよね。もし、他の産地のお茶と同じ価格帯で販売しているのなら、ランクが低いものなのかもしれない。あとは中国紅茶、特に最近のものは西洋式のティーポットで長く蒸らして1煎出し切りにするというよりも、煎を重ねてこそ持ち味が活きるので、そのせいかもしれない。いずれにしても、祁門紅茶の特徴はスモーキーとか言ってたら、産地の人怒ると思うよ。

また、祁門紅茶は製法の違いにより、3つのタイプがあるとされます。

・祁門工夫紅茶 ・・・ 仕上げ工程でカット(切細)を行った条形の祁門紅茶
・祁紅香螺 ・・・ カットをせず、巻いた形に仕上げられた祁門紅茶
・祁紅毛峰 ・・・ カットをせず、弯曲した形に仕上げられた祁門紅茶

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あるきち

伝統的なものは祁門工夫紅茶。祁門紅茶は小葉種を用いた紅茶なので、味わいや色合いはどうしても淡くなりがち。その部分を補う方法として、荒茶を作ったあとに茶葉を細かくカットして、成分の抽出を早めたタイプ。ただ、渋みも出やすいので、最近はカットを行わない祁紅香螺、祁紅毛峰といったものも国内向けには人気だね。

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かおり

紅茶には心地よい渋みという表現があるけれど、中国の人は紅茶でもその感覚があまりなくて、甘くて香りが良いのを好むので、渋みは避けられがちなの。だから、カットしたものとそうでないものを飲み比べると、好みが分かるわね。

 

祁門紅茶の産地

祁門紅茶は地理的表示産品であるため、原産地の保護区域がきちんと定められています。

2009年に制定された定義書では、安徽省黄山市祁門県のみが原産地とされていました。
が、伝統的には近隣の安徽省池州市の貴池区、東至県、石台県と黄山市黟県、江西省景徳鎮市浮梁県などでも生産されていました。
このことで議論があり、最新版の2019年に公布された業界標準『祁門工夫紅茶』GH/T 1178-2019 では、原産地の範囲が「安徽省祁門県の行政区域を核心産地とし、近隣の伝統産地も含む」に改められています。

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わかば

やっぱり祁門県産のものが一番なんですか?

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あるきち

それは一概には言えないんだよね。環境は大きな県の括りだけでは結論づけられないから。製法のレベルについても、どこも歴史ある産地なので。名前だけにとらわれずに、品質でちゃんと見ないとね。

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フーマオ

お茶は名前だけで選んじゃダメよ!

 

祁門紅茶の製法

祁門紅茶は、茶葉をカットせず、揉捻のみで酸化酵素とポリフェノールの接触を行っていく、工夫紅茶です。

茶摘みは春と夏、それからごく僅かですが秋にも摘み、生産量が最も多いのは春茶になります。
生葉の摘み取りはグレードによって一芽一葉から一芽四葉まで様々です。
2019年に制定された定義書によれば、祁門工夫紅茶の等級は、国礼、特茗、特級、一級、二級、三級、四級、五級の8段階に分けられています。
たとえば、特茗であれば、生葉は一芽一葉、一級は一芽二葉がメイン、三級は一芽三葉をメインにするといった具合に茶摘みの基準が異なります。
なお、紅香螺、毛峰については特級、一級、二級の三段階で、一芽一葉から一芽二葉の茶葉で作ります。

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あるきち

茶摘みが細かくなればなるほどコストがあるのでお値段は高くなります。祁門香は基本的には一級以上の茶葉にしか出てこないので、祁門紅茶らしさを感じるには、それなりの予算が必要かなと思います。

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わかば

祁門香のあるものを飲んでみたいですね!

茶摘みした茶葉は、萎凋槽に移され、温風による萎凋を行います。
萎凋後の茶葉を揉捻機にかけ、茶汁でベタベタした状態にします。
そのあと、温度と湿度をコントロールした発酵室へ入れ、発酵を行います。

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あるきち

紅香螺と毛峰は発酵が終わった段階で、成形工程を行い、乾燥して荒茶になります。一方、スタンダードな工夫紅茶は発酵後に乾燥して荒茶となります。ただ、工夫紅茶の名がある通り、手間が掛かるのはここからの仕上げ作業です。

祁紅香螺の茶葉

祁門工夫紅茶の仕上げ作業は、いくつもの篩にかけて茶葉を大きさ別に分類し、さらに茶葉を細かくする工程(切細)を行い、再び篩にかけたり、風を使って選別(風選)などを行い、大きさなどを揃えます。
その上で、最後に火入れをして、香りを引きだして終了となります。
今は機械化されていることが多くなりましたが、かつては篩がけなどは目の細かさの違う篩をいくつも使い、非常に手間ひまのかかる作業で、まさに”工夫(手間ひまを掛ける)”に相応しいものでした。

 

祁門紅茶の特徴

ここまで書いてきた祁門紅茶の特徴をまとめると、

・祁門工夫紅茶、祁紅香螺、祁紅毛峰の3種類があり、工夫紅茶のみカットされたお茶
・祁門工夫紅茶はカットされている分、味わいや色が濃いめに出る傾向。色や味は薄いが、甘みを重視するなら紅香螺、毛峰。
・祁門紅茶の特徴である祁門香は、甘いバラやりんご、糖蜜のような香り。

ということになります。

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あるきち

祁門紅茶はスモーキーだという印象を持っている方も多いので、是非グレードの高いものを中国式の淹れ方で試して欲しいですね。

 

祁門紅茶の淹れ方・飲み方

祁門紅茶は、紅茶なので、基本的には高温を維持した方が持ち味の香りを引き出すことが出来ます。
その点を踏まえると、茶器は、

・茶壺
・白磁の蓋碗

などを使うのが良いのではないかと思います。
もっとも、渋みが少ないタイプの紅香螺、毛峰などであれば、中国緑茶のようにグラスに茶葉を入れる方法でも飲むことができます。

蓋碗(容量110cc程度)の場合の淹れ方をご紹介します。

まず、蓋碗の半分くらいまでお湯を注ぎ、しばらく置いて予熱します。
予熱後、お湯を捨てます。

茶葉は4~5g程度入れます。
短時間で抽出するため、茶葉を多めに使います。

お湯の温度は、芽の部分が多く使われているかどうかで変えます。
芽が多い場合は、熱湯だと熱が通り過ぎえぐみが出る傾向があるため、温度を少し落としたもの(90℃程度)を用います。
葉の部分が多い場合は、熱湯を用いて香りを引き出すようにします。

1煎目は、祁門工夫紅茶の場合は30~40秒程度、紅香螺、毛峰の場合は50秒~60秒程度で抽出します。
2煎目以降は、20秒程度で淹れていきます。

祁門工夫紅茶はカットしている分、味わいが1~3煎目までに急速に抽出されてしまうので、その特性を把握して淹れると良いでしょう。
紅香螺、毛峰の場合は、味の抽出がゆっくりなので、好みの濃さを水色を見ながら調整することをお薦めします。

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フーマオ

1杯で全ての味を味わおうとするのではなく、何煎も重ねて飲んでいき、口の中に残る甘さや余韻を感じるようにすると美味しく飲めるかも。”点”ではなく”線”で味わうイメージで!

 

祁門紅茶の保存

祁門紅茶は、一般的にはフレッシュなうちに飲み切った方が良いと言われます。
が、少し熟成した祁門紅茶を楽しむことも出来ます。

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あるきち

出来たてのフレッシュ感も捨てがたいけれど、新茶のうちは少し青っぽい香りなども残っていて、それが少し雑味に感じられることもあります。しばらく寝かせておくと、その青い部分がなくなり、角が取れたような円い味わいになることもあります。寝かせたい場合は、未開封のものを寝かせるか、小分けにしておくことをお勧めします。

開封したら、できるだけ早く飲み切るのが、お茶を美味しく飲むコツです。
一度開封した袋は、できるだけ中の空気を抜いた上で、きちんと密閉し、直射日光の当たらない冷暗所に保存しましょう。

長期保存したい場合は、封を切らない状態にして、結露などが発生しない冷暗所で常温保存します。
直射日光を避け、周囲ににおいの強いものなどを置かないように注意しましょう。

 

品質の高い祁門紅茶は、紅茶専門店よりも中国茶専門店の方が入手しやすいかもしれません。
探してみてくださいね。

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