正山小種とはー特徴・定義・産地・製法・淹れ方・飲み方

正山小種(せいさんしょうしゅ)

<正山小種>
読み : せいさんしょうしゅ/ラプサンスーチョン
中文 : 正山小种 zhèng shān xiǎo zhǒng
茶類 : 紅茶(小種紅茶)
産地 : 福建省南平市武夷山市 ※地理的表示産品
品種 : 地元の在来種
時期 : 3月上旬~4月下旬
茶器 : 蓋碗、茶壺などを推奨

 

紅茶の元祖であり、変わりゆくお茶

世界で飲まれている紅茶。その紅茶の祖先と目されているのが、福建省の武夷山で生産されている「正山小種(せいさんしょうしゅ)」です。
カタカナの「ラプサンスーチョン」という名前でも知られています。

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あるきち

地元の主張によると、16世紀末、明の時代の末期頃に福建省と江西省の省境付近にある、星村鎮桐木村で紅茶の製法が開発されたとされています。当地に伝わる伝説では、製茶シーズンに北方から軍隊がやって来て、踏み荒らされていったことで茶葉の発酵が進んでしまった。そのお茶を勿体ない、ということで釜で炒り、さらに地元に多く生えていた馬尾松(ばびしょう・和名はタイワンアカマツ)という木を薪にしたもので乾燥させた。それを市場に出荷したところ、大いに売れた・・・というのが大まかな紅茶発祥の伝説です。

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わかば

紅茶は、緑茶を船に乗せてたら、時間が経って勝手に発酵したっていう話を聞いたことがありますけど。

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あるきち

うーん、お茶の発酵のメカニズムを考えると、それは無さそうだよね。酵素を壊したあとの緑茶が、紅茶のように発酵することは考えにくい。それよりは桐木村の伝説の方がまだ科学的には正しそうかな。

桐木村で生まれた紅茶は、武夷茶(Bohea)としてヨーロッパに輸出され、好評を博しました。
乾燥に松の木を燃料として使っていたことから、松ヤニが燃焼した独特の香りが付いていましたが、その香りを特に好む向きもあったようで、燻煙を強めたお茶も出回るようになりました(いわゆるラプサンスーチョン)。

新中国成立後も紅茶は外貨獲得のために、盛んに生産されていましたが、中国の紅茶輸出が国際競争力などの面から下火になると、正山小種は販売不振に陥ります。
その理由としては、国内の消費者に紅茶を飲むという習慣がほぼ無かったこと。
さらに正山小種独特の松の燻煙の香りが国内の消費者に受け入れられなかったこと、があります。

正山小種は価格低迷が続きますが、同じ武夷山の武夷岩茶は全国的に人気を博すようになり、価格差が大きく開きました。
桐木村は、同じ武夷山市であるとはいえ、岩茶の生産地域からは車で1時間半ほど山に入ったところにあります。
土壌などの環境が全く違うため、武夷岩茶の製造も試みられましたが、上手く行かなかったそうです。

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わかば

正山小種がダメなら、武夷岩茶を作れば良いじゃない、と思ったんですがダメなんですね。

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あるきち

お茶は土地と共にある農作物だし製茶技術も違うし、そんな簡単なものでは無いんだよね。

歴史ある故郷の苦境を打破すべく、地元の有力な生産者が集まって、2006年頃から烏龍茶の製法を一部に取り入れた新しい紅茶・金駿眉を開発します。
金駿眉は甘くて渋みが少なく、見た目も優美で中国の消費者の心を掴みました。

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あるきち

金駿眉がきっかけになって、中国には紅茶ブームが巻き起こっています。紅茶の祖先である正山小種にも再び注目が集まりはじめているのですが、新しい製法のものが多くなってきていて、今は、正山小種の定義自体も少し見直さなければいけない過渡期にあるかもしれません。

 

正山小種の定義

正山小種は、武夷山市で生産される武夷紅茶の一種として定義されています。
その定義書による、製品の定義は以下の通りです。

4.2 正山小種 Lapsang souchong

正山小種は有性繁殖を行った武夷菜茶の芽葉を用い、伝統的な加工技術によって製造された紅茶を指す。

4.3 小種 Souchong

小種は無性繁殖を行った武夷小葉種の芽葉を用い、伝統的な加工技術によって製造された紅茶を指す。

4.4 煙小種 Smoke souchong

煙小種は小葉種紅茶の初製製品を松の柴を用いて薫焙して製造された紅茶を指す。別名を“人工小種”という。

福建省地方標準『地理的表示製品 武夷紅茶』 DB35/T 1228-2015 より

一般的に「正山小種」と呼ばれているものは実は3種類に分かれています。
1つ目が、正山小種。これは武夷山の在来種(種から増やした茶樹)を用いたもの。
2つ目は、武夷山の地元の茶樹を品種化して育てたものから作った、小種。
そして3つ目に、他の地区から小葉種の紅茶の荒茶を持ち込んで、薫焙だけしたものが煙小種となります。

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あるきち

”正山”というのは、本来の山(場所)ということなので、武夷山産であることを示しています。煙小種は別名・外山小種(がいさんしょうしゅ・ターリースーチョン)と呼ばれていて、近隣の紅茶産地だけで無く、たとえば祁門紅茶なども持ち込まれていたことがあります。

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わかば

なるほど。武夷山が正しいお山、ということですね。

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あるきち

それから、それぞれのお茶の香りも表現されています。正山小種は、桂圓乾香という干した龍眼の香り。小種は、甜香(甘い香り)と松煙香。煙小種は松煙香というふうに、香りのタイプも分かれています。

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わかば

龍眼というのは何ですかね?

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あるきち

ライチを一回り小さくしたような果物だね。ライチに似ているけど、ちょっと漢方薬っぽい匂いがあることと種が大きくて食べられる部分がちょっと少なめ。これを乾燥したものが桂圓で、漢方などで用いられる。甘い南国っぽい香りがありつつ、乾燥するときに煙で焙ったりするので、甘さと煙さが入り混じった香りを指しているんだと思います。

ただ、最近は中国国内市場を意識した商品が増えているので、この分類が当てはまらないケースもあります。

たとえば、正山小種であっても、松の煙での乾燥(燻煙)を一切行わないタイプも出てきているのですが、これも正山小種として出回っています。
さらに、もっと華やかな、甘い果物のような香りをした紅茶も、正山小種の名前を冠して出回ることがあります。
代表格が、妃子笑(ひししょう)などのお茶です。

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あるきち

実はこうしたお茶は武夷紅茶の中にもう1つの分類としてある、「奇紅(きべに)」という種類だと考える方が自然です。このタイプの代表格が金駿眉で、先程挙げた妃子笑などは、金駿眉の製法の応用で作られ、松での燻煙などを行わないので、こちらで整理した方が本来は良いのだと思います。ただ、知名度的に正山小種の名前を冠した方が売りやすいということで、そのように名前がついているのだと思います。このあたりは、混乱の元なので整理して欲しいところですが、それだけ正山小種というのは、現在進行形で変化しているお茶と言えるかもしれないね。

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わかば

正山小種、なかなか奥が深そうですね。

 

正山小種の産地

正山小種を含めた武夷紅茶は地理的表示産品であるため、原産地の保護区域がきちんと定められています。
原産地は、基本的には武夷山市全域に加え、武夷山市と建陽市、光沢県、邵武県の4自治体に跨がる「武夷山国家級自然保護区」を含めた範囲とされています。

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わかば

武夷山国家級自然保護区というのは武夷岩茶の正岩茶を作っている場所と同じですか?

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あるきち

よく誤解されがちですけど、全然違う場所です。正岩茶を作っているのは「武夷山国家級風景区」です。「武夷山国家級自然保護区」の方は、江西省との省境にある山地で約565㎢の面積があります。平均的な標高は1000mとされていて、結構な高山地域ですね。国家級自然保護区という名前はダテではなく、木や草を勝手に取ることは許可されていません。なにより、観光客は入れない地域です。地元に住んでいる人が、この人は大丈夫です、と身元保証をしないと入れないというぐらい、厳重な場所です。

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わかば

なんだか凄いところのようですね。。。

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あるきち

基本的には外国人は入れないはずなんですけど、まあ、たまに訪問した方はいますね。中国人のふりをして招待してもらった、とかで。

 

正山小種の製法

正山小種は、基本的な作り方は工夫紅茶の製法と同じく、発酵を揉み込みだけで行っていきます。
違うところは、松の煙での乾燥(燻煙)の有無にあり、これがあるものが小種紅茶という分類になります。

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かおり

とはいえ、さっきの話にもあった通り、最近は燻煙をしていない正山小種も出回っているので、基準がちょっと合わなくなってきている部分はあるわね。

正山小種の伝統的な製法を語る上で、欠かせない建物があります。
それは、「青楼(せいろう)」という、木造の3層構造になっている建物です。

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あるきち

青楼はフロアごとに機能が分かれていて、それぞれのフロアは、吹き抜けのような形で繋がっています。まず、1階の部分には薪を燃やすかまどがあり、ここに松の木の薪を燃やし、熱と煙を起こします。その熱と煙がすぐに上がってくる2階フロアは、煙と熱が充満しているので、ここで乾燥(燻煙)を行います。2階フロアを通り抜けた煙と熱は、やや弱まりながら3階フロアに達します。このフロアでは茶葉を加温萎凋する場所として使います。

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わかば

燃やしたエネルギーを無駄にしないんですね。なんて効率的なの!

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あるきち

そう、効率的なんだよね。ただ、この青楼には問題がいくつかあって、まず1つ目は、煙の充満する中で作業をしていると、眼の病気にかかったりするケースが多い。実際、この作業がもとで失明してしまった人もいます。さらに燃料である松の木(馬尾松)の入手が、武夷山が世界自然遺産に登録されたことで難しくなってしまった。さっき、”勝手に木を切っちゃいけない”と言ったと思うけど、それは地元の人にも適用されるわけ。そうなると、コストをかけてよその土地から松の木を持ってこなければ行けない。

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わかば

うーん、それはどちらも深刻な問題じゃ無いですか!

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あるきち

そうでしょ?で、失明の危険を冒し、よそから割高な松の木を持ってきて、燻煙をした伝統的な正山小種を作ったとしても、中国の飲み慣れない消費者の方は嫌だといって、高値で売れない。そうなると、伝統的な松の木で作った正山小種というのは・・・

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わかば

作らなくなりますね。割に合わないもの。

実際、中国の国内で販売されている国内向けの正山小種の多くは、松の木の燻煙を経ないものが多くなっています。
現状は定義と現実が乖離してしまっており、これが正山小種を少しわかりにくいお茶にしている理由だと思います。

 

製法の話に戻ると、正山小種は茶摘みの大きさで等級が決まります。
特級は一芽二葉、一級は一芽三葉、二級は一芽二葉で摘まれます。

正山小種は基本的には太陽光には当てず、室内萎凋のみで製造されます。
茶摘みをした後、青楼の一番上のフロアに持って行き、煙の充満する室内で加温しながら萎凋します。

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フーマオ

桐木産のものは最初から煙を吸うけど、他の産地から持ってきたお茶は煙を吸っていない。だから煙小種のことを人工小種というわけ。

萎凋が終わった茶葉を取り出し、揉捻を行います。
揉捻は木鍋と呼ばれる、餅つき用の臼を少し浅め(中華鍋型)にしたような道具の中に入れ、揉み込んでいきます(現在は機械も使われます)。
揉捻が終わったら、茶葉をしばらくおいて発酵させます。

発酵が終わった茶葉は、伝統的な技法では「過紅鍋」という工程を経ます。
これは、釜炒りを行うもので、ここで発酵を止め、茶葉の香りを良くし、茶葉の締まりを良くするという効果があります。

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あるきち

この製法は効率が悪いということで、長らく省かれていたんだけど、最近になって桐木村産の紅茶が高く取引されるようになり、手間をかけられるようになったから製法が復活したという珍しいケースです。高値で売れることで良いものを作る手間をかけられるようになったということ。

過紅鍋を復刻した梁駿徳さん(金駿眉開発者の1人)

過紅鍋のあとにもう1回揉捻(復揉)を行い、茶葉をきつく締めます。
そのあとで、青楼の2階フロアの乾燥室に入れ、茶葉を燻煙するとともに乾燥します。

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あるきち

煙小種の場合は、乾燥工程だけやるイメージですね。香りを強くして欲しいという要望があれば、長く置いたり煙の量を調整するわけです。

 

正山小種の特徴

ここまで書いてきた正山小種の特徴をまとめると、

・本来の正山小種は松の煙の香りと甘い果物の香りが入り混じった干し龍眼の香りに喩えられる香りのお茶。
・ただし、主に西洋からのオーダーが香りが強めの方が人気があったため、松の香りの強い(正露丸風の)ラプサンスーチョンが出回った。
・現在は国内市場向けに作られているお茶は松の木による乾燥を行わないものも出てきている。

ということになります。

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あるきち

甘い香りのする正山小種の多くは、実は奇紅という別のジャンルである可能性も高いですね。こうしたお茶は、次回の金駿眉のところでご紹介します。

 

正山小種の淹れ方・飲み方

上質な正山小種は、煎が効くタイプの紅茶ですので、

・茶壺
・蓋碗

などを使って、何煎もじっくり楽しみたいお茶です。

今回は小ぶりの蓋碗(110cc程度)を使った淹れ方をご紹介します。
蓋碗をお湯で温めたあと、茶葉を3.5~5g程度入れます。

お湯の温度は90度ぐらいにし、1煎目はお湯を注いだら、5秒で茶海にあけます。
現代的な正山小種はあまり長い抽出時間は向かないケースが多いため、4煎目ぐらいまでは30秒以内でサッサと淹れる方が、美味しさを長く楽しむことが出来ます。

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わかば

お湯の温度も90度だし、抽出時間も5秒とか30秒以内とか・・・これ、本当に紅茶の淹れ方なんですか?

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あるきち

現地では割とこんな感じで淹れているんだよね。最初の1煎目はちょっと淡いかもしれないけれど、何煎も煎を重ねて飲んでいき、口の中に徐々に甘さや味わいを貯めていって、味わうという感じかな。西洋風の淹れ方は1ポットに全ての味わいを込めるという”点”の飲み方だとしたら、中国風の紅茶の淹れ方は時間軸で味わう”線”の飲み方だね。

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フーマオ

今まで紅茶風に長蒸らしで淹れていた人は、この淹れ方もやってみよう!全く個性が違うように感じられると思います。

 

正山小種の保存

正山小種は紅茶であり、セオリーとしては新鮮なうちに飲んだ方が良い、ということになります。
が、少し寝かせておくことで味がまろやかになるものもあり、密封をきちんと行えば、比較的ゆっくりと飲めるお茶だと思います。

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あるきち

出来たてのフレッシュ感も捨てがたいけれど、新茶のうちは少し青っぽい香りだったり、燻煙ものでは煙の香りなども残っていて、それが少し雑味に感じられることもあります。しばらく寝かせておくと、その嫌な部分がなくなり、角が取れたような円い味わいになることもあります。寝かせたい場合は、未開封のものを寝かせるか、小分けにしておくことをお勧めします。

開封したら、できるだけ早く飲み切るのが、お茶を美味しく飲むコツです。
一度開封した袋は、できるだけ中の空気を抜いた上で、きちんと密閉し、直射日光の当たらない冷暗所に保存しましょう。

長期保存したい場合は、封を切らない状態にして、結露などが発生しない冷暗所で常温保存します。
直射日光を避け、周囲ににおいの強いものなどを置かないように注意しましょう。

 

正山小種は、紅茶から入った方ほど、驚きを感じる中国紅茶かもしれません。
こだわり系の中国茶専門店さん、ネットショップさんでは上質な正山小種を扱っていることも多いので、ちょっと値は張りますが、ぜひ中国紅茶風の淹れ方で飲んでみてください!

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