紅茶-発酵で甘い香りを引きだした紅いお茶

六大分類の茶類のご紹介。
続いては紅茶です。

紅茶の定義

まずは中国における紅茶の定義をご紹介します。

2.10 紅茶(红茶) black tea

生葉を原料とし、萎凋、揉捻(切)、発酵、乾燥などの加工技術を経ることによって生産された製品。

【出典】中華人民共和国・国家標準『茶葉分類』GB/T 30766-2014

萎凋、揉捻(揉切)、発酵、乾燥という工程を経るものと定義されています。
特に発酵度などの規定はありません。あくまで、製法がこのようなものであるかどうか、です。

国際的な基準との差異はあるのでしょうか?
国際標準化機構(ISO)の紅茶の定義も見てみましょう。

black tea

tea derived solely and exclusively, and produced by acceptable processes, notably withering, leaf maceration,aeration and drying, from the tender shoots of varieties of the species Camellia sinensis (L.) O. Kuntze, known to be suitable for making tea for consumption as a beverage

【出典】ISO 3720:2011  Black tea-Definition and basic requirements

(抄訳)
カメリア・シネンシス種の柔らかい新芽のみから作られ、通常は萎凋、揉捻(leaf maceration・直訳は葉の浸解)、発酵(aeration・直訳は通気)そして乾燥させたもので、飲料として消費されるのに適したもの。

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あるきち

表現が少し違うところはあるけれども、「萎凋」「揉捻(あるいは揉切)」「発酵」「乾燥」という工程で作られるお茶、ということだね。「全発酵茶」のようなことは書いていない。

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わかば

完全発酵でなければ紅茶ではない、というのは間違いだということですね。

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あるきち

そうだね。ダージリンの青いタイプのファーストフラッシュでも、作り方が紅茶のものであれば、紅茶だということだね。発酵程度は関係無い。

 

紅茶の特徴

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あるきち

紅茶の特徴は中国語で言うと、”紅葉紅湯”。要するに葉っぱが紅色で、お茶の水色(すいしょく)も紅色ということだね。

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わかば

紅葉紅湯。これも分かりやすいですね。

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あるきち

製法から見ると、まず萎凋を行って酸化酵素の活性を高めた上で、揉捻あるいは揉切を行う。これによって、細胞壁の中の液胞にあるポリフェノールを茶汁という形で多く染み出させる。その上で、温度や湿度をコントロールした発酵室に入れるなどして、酸化発酵を促す。そして、適切なタイミングで乾燥を行い、そこで熱にさらすことで発酵を止めて、乾燥させるというわけだ。

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わかば

揉捻や揉切をお茶のジュースを染み出させると考えると分かりやすいですね。それを葉っぱの表面や葉脈などにある酸化酵素と触れ合わせて、発酵を促す、と。

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あるきち

そうだね。烏龍茶も発酵させるけれども、こちらは段階的に行う。一方、紅茶はアクセルを踏みこんで、一気に発酵を進めるイメージかな。

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わかば

ところで、中国の紅茶って、あまりイメージが無いんですけど。

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あるきち

昔から有名なものとしては、祁門紅茶(キームン)や正山小種あたりが有名かな。正山小種は、ラプサンスーチョンという名前の方が通りが良いかもしれない。

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わかば

ラプサンスーチョンって、あの正露丸みたいな香りするヤツですか?あれも中国茶なんですね。カタカナだから違うと思ってました・・・

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あるきち

そういうイメージはあるかもしれないね。それから、薫香の強いものは、実は輸出用なんだよね。今、国内向けに流通しているのはだいたい薫香の無いタイプ。中国国内では、紅茶がブームになっていて、最近は国内での消費が増えているんだ。

中国の紅茶は、かつては盛んに輸出されていましたが、国際競争力の点などから、しばらく低迷していました。
しかし、2010年以降、国内での紅茶ブームの高まりを受けて、各地で新しいタイプの紅茶が開発されています。

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かおり

そのブームのきっかけを作ったのが、金駿眉(きんしゅんび)という紅茶ね。

金駿眉は2008年頃から、中国で流通するようになった紅茶で、紅茶の元祖である正山小種を生み出した武夷山市星村鎮桐木村が原産のお茶です。
独特の香りと甘みから、大ヒットし、現在は他の産地でも金駿眉と称する紅茶が作られるようになっています。

 

3タイプの紅茶

中国で生産されている紅茶は、3つの種類があるとされています。

紅砕茶(こうさいちゃ)
Broken black tea
揉切を用いて製造した顆粒形、破片形の製品。
CTCなど、いわゆるアンオーソドックス製法の紅茶。
工夫紅茶(くふう/コンフー こうちゃ)
Congou black tea
揉捻を用いて製造した条形の製品。
いわゆるオーソドックス製法の紅茶。
小種紅茶(しょうしゅ こうちゃ)
Souchong black tea
揉捻を用い、松の煙で燻製して製造した条形の製品。
松の薪を用いて燻煙を施した紅茶。
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あるきち

このうち紅砕茶はティーバッグ原料などにされることが多く、あまり一般の市場には出て来ないね。中国の紅茶市場として中心になっているのは、工夫紅茶というもの。その工夫紅茶の変化したものとして、松の薪で燻煙した小種紅茶という種類があるというイメージかな。

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わかば

紅砕茶と工夫紅茶の違いはどこにあるんですか?

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あるきち

細胞壁を破壊して茶汁を出す工程を、茶葉を細かく切り刻んだり、ミンチにするような方法でやるのが紅砕茶。揉み込みだけでやるのが工夫紅茶という風に考えてもらえれば良いかな。発酵の効率の点では紅砕茶の方が良いし、お茶の抽出も早くなるけれども、反面、渋みの成分も出やすくなるので、中国の人たちからの評価はやはり工夫紅茶ありきになるね。

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わかば

一般的に買えるのは工夫紅茶が中心ということですね。ところで小種紅茶の松の煙で・・・というのが、良く分からないんですが・・・

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あるきち

原産地の武夷山の山奥では、周囲に馬尾松(ばびしょう。和名はタイワンアカマツ)という木が多くあったので、それを薪(たきぎ)にして乾燥したんだよね。この木には松ヤニが含まれていて、燃やしたときに独特の香気を持った煙が出る。それに燻されると、わかばさんがさっき言ってた正露丸の香りになるというわけ。

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わかば

どこかで松の葉っぱで燻煙したフレーバーティー、という記述を見たんですが、あれは違うんですかね?

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あるきち

松の”葉っぱ”ではないね。木そのものだよ。そして、”フレーバーティー”というのは少し言いすぎだと思う。ただ、外部の土地で作られた工夫紅茶を武夷山に持ち込んで、燻煙だけ武夷山で施したものはあるね。これは外山小種(がいさん しょうしゅ)、あるいは煙小種(えん しょうしゅ)と呼ばれています。そういうクセがあるものの方が海外ではウケるようで。本来の意味での正山小種は、武夷山産の在来種の茶葉を伝統製法で作ったものだね。最近は、燻煙が国内の消費者には受けないので、薫香の無いものがほとんどだけど。

 

最近の中国紅茶の淹れ方

最近の中国紅茶は、国内の消費者をターゲットに開発されていて、甘く、渋みがなく、香りが良いのが特徴です。
西洋の紅茶の場合は、”心地よい渋み”という表現があり、渋みがあることを肯定的に捉えていますが、中国の場合は、”渋み=良くないお茶”というイメージが強いので、渋みのある紅茶は好まれません。

そのため、最近開発された紅茶の多くは、芽の部分を用いた、繊細で甘い紅茶が多くなっています。

江蘇省の碧螺紅茶(2010年に新開発された紅茶)

こうしたお茶は、インドやスリランカ産の紅茶のように、長蒸らしでティーポットに全ての味を出し切るスタイルだと持ち味が活かせません。
急須や蓋碗などを使って、サッと短時間(10~20秒程度)で抽出していく烏龍茶のような淹れ方の方が、美味しく味わえます。

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フーマオ

紅茶は熱湯・100℃のイメージがあるかもしれないけど、85℃ぐらいのお湯で淹れた方が美味しいこともあるよ。

 

<今日のまとめ>
・紅茶は、萎凋、揉捻(揉切)、発酵、乾燥の工程を経て作られるお茶であり、発酵程度は関係無い。
・中国で生産されている紅茶は、紅砕茶、工夫紅茶、小種紅茶の3種類があり、工夫紅茶が中心である。
・最近の中国紅茶は、国内の消費者の嗜好にあわせた、甘くて渋みの少ない紅茶が主流である。
・中国紅茶は長蒸らしをしてティーポットに全ての味を出し切る飲み方よりも、短時間抽出で煎を重ねていく方がお勧め。

 

続く。

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