烏龍茶-香りと味わいのバランスを追求した茶
六大分類の茶類のご紹介。
続いては烏龍茶です。
烏龍茶は、中国の中ではローカルなお茶なのですが、日本では人気の茶種です。
他の中国茶と比較すると日本での入手性が良く、情報も多く流通しているお茶だと思います。
そのためか、情報が細かすぎて混乱してしまう向きもあるようです。
ここでは、入門の取っ掛かりになりそうな内容をご紹介したいと思います。
烏龍茶の定義
烏龍茶については、国際的な基準はまだ無く、現在、中国主導で規格を策定中です。
ここでは、その元になるであろう中国における烏龍茶の定義をご紹介します。
2.13 烏龍茶(乌龙茶) oolong tea
特定の茶樹品種の生葉を原料とし、萎凋、做青、殺青、揉捻などの特定の技術によって生産された製品。
【出典】中華人民共和国・国家標準『茶葉分類』GB/T 30766-2014
烏龍茶は香りの豊かさが特徴であるため、香りを活かしやすい”特定の茶樹品種”という表現が記載されています。
製法については、萎凋、做青、殺青、揉捻という工程を経るものと定義されています。
重要なことは、”発酵度”のような発酵程度の規定は無いということです。
あくまで、製法がこのようなものであるかどうか、です。
やっぱり発酵度の問題ではなく、製法なんですね。発酵度というのは一体何だったんでしょうか・・・
一応、元々あったポリフェノールがどれだけ酸化したかを発酵度と称していたようなんだけれど。ただ、その測定は茶農家レベルで簡単にできるものではないし、測定対象となるものが厳密ではないようなので、数値としての表記は意味が無いというのが、今の中国側の考えのようだよ。一時、台湾では国の機関である茶業改良場が数値を発表していたけど、最近は取り止めているね。
今後、世界的な規格ができるとしても、中国の基準が元になると思われるので、中国の烏龍茶の定義がより一般化するのでは無いかと思われます。
烏龍茶の特徴
烏龍茶の特徴は、やはり香りにあるね。何も加えていないのに花のような香りや果物のような香りがあることが魅力です。実は、それを実現するには、お茶の品種の特性が必要で。具体的には、茶葉の表層組織が厚く、蝋質が多いことが大事になる。蝋質の成分が分解・転化することによって独特の香りが生まれているんだよね
どんな葉っぱでも緑茶や紅茶、烏龍茶になると思っていたんですが、やっぱり向き不向きがあるんですね。
そうだね。だから、”特定の茶樹品種”とわざわざ書いているわけ。生で食べて美味しいりんごと加熱して美味しいりんごの品種は違うけれど、それと同じだね。中国では広く使われている主要な烏龍茶品種がいくつかあって、鉄観音(てっかんのん)、黄金桂(おうごんけい)、水仙(すいせん)、肉桂(にっけい)などが有名かな。
品種で味わいが違うんですね。ワインみたいですね。
さらに烏龍茶は、酵素の働きをコントロールしながら、発酵をさせるという特色があります。この発酵工程のことを、做青(さくせい)といい、適切な発酵の程度になったら、殺青(さっせい)で固定する。烏龍茶は僅かな発酵の違いで香りが変わるし、さらに製茶後に焙煎を施すことで、さらにバリエーションは増える。作り手がどういうお茶にするかをデザインできるお茶とも言えるかな。
ほほー。作り手の違いも出てくるということですね。興味深い。
烏龍茶の基本は、いま挙げた「発酵」と「焙煎」そして「品種」の違いだね。この組み合わせで大まかな特徴は掴めるんだけど、そのほんの僅かの差で劇的な違いがあったりするので、奥が深い世界なんだね。
なるほど。こだわりが凄そうな気がしてきました。
大まかに分けて4つの産地
烏龍茶は産地によって製法に違いがあり、大まかには以下のように分けられます。
特徴 | 主な名茶 | |
閩北(びんほく)烏龍茶 福建省北部(武夷山市など) |
細長くよじれた茶葉 | 武夷岩茶(大紅袍、肉桂、水仙、鉄羅漢、白鶏冠、水金亀など)、閩北水仙など |
閩南(びんなん)烏龍茶 福建省南部(安渓県など) |
球状に丸まった茶葉 | 安渓鉄観音、黄金桂、本山、毛蟹、色種、白芽奇蘭など |
広東(かんとん)烏龍茶 広東省東部(潮州市、梅州市) |
細長くよじれた茶葉 | 鳳凰単叢、嶺頭単叢など |
台湾烏龍茶 台湾全域 |
半球型に丸まったお茶、細長くよじれた茶葉など種類によって異なる | 凍頂烏龍茶、高山烏龍茶(阿里山、梨山)、木柵鉄観音、文山包種茶、東方美人茶など |
地域によって作られているお茶が違うんですね。
烏龍茶は基本的には福建省の近くで作られているローカルなお茶なんだよね。それでも作られているお茶には違いがあるので、順番に説明していきましょう。
閩北烏龍茶
福建省武夷山市を中心とする福建省北部で生産される烏龍茶です。
福建省のことを一文字で「閩(びん)」というので、閩北烏龍茶です。
特徴としては細くよじれた形をしていて、伝統的には焙煎が強く茶色い色をしたものが多いかな。代表的な銘柄は、武夷岩茶(ぶいがんちゃ)で、さまざまな品種から作られているので、その品種の名前を冠したものが多い。水仙、肉桂、それから大紅袍あたりが有名なものだね。
これはイメージしている烏龍茶の色に近いですね。
日本の有名メーカーのペットボトル烏龍茶には、武夷岩茶やその近くで作られている閩北水仙が使われているからね。武夷岩茶は、伝統的には焙煎が強くて、焙煎の香りを感じる重厚な印象のものが多いです。が、最近は、中国でも飲み手が多様化しているので、焙煎が軽くて花のような香りのする軽快なお茶も出てきています。
代表的なお茶としては、どんなものがありますか?
武夷岩茶は、さまざまな品種から作られているので、品種の名前を冠したものが多いです。押さえておきたい有名どころで行くと、水仙(すいせん)と肉桂(にっけい)というお茶ですね。水仙は「武夷水仙」、「武夷岩茶 水仙」のような名前で売られていると思います。香りよりは、ごくごく飲めるような飲みやすさと味わいが特徴。一方、肉桂は香りがぎっしりと詰まった重厚感のあるお茶で、ゴクゴク飲むというよりチビチビ飲むのに適したタイプです。香りの凝縮感は岩茶の中でも特筆ものですね。この両者は、”味わいの水仙と香りの肉桂”としてよく対比されます。
水仙と肉桂、覚えておきます。
あとは、大紅袍というお茶が非常に有名です。武夷岩茶の代名詞にもなっているぐらい。崖の上に原木が生えていて、そのお茶に関する伝説が色々語られているので、一番有名なお茶だと思います。その物語から入ると、特別感を感じる人も多いんだけど、実際には結構気軽な値段から売られているお茶です。なぜなら、現在では複数の品種をブレンドしたものが一般的に「大紅袍」と呼ばれているので、ブレンドらしいバランスの良いお茶が多いね。
大紅袍って超高級茶って噂を聞いていたんですけど、違うんですか?
原木から作ったお茶が物凄い高値が付いたという話から、尾ひれが付いているんだろうね。ブレンドのお茶が大多数を占めているけれども、大紅袍にはもう1種のパターンがあって、それは大紅袍の原木が6本あるんだけど、そのうちの1本の木を苗にして育てているものだね。これは”大紅袍”という品種になっていて、この品種だけで作ったお茶は、’純種大紅袍”と呼ばれているね。
やっぱり、純種ってぐらいだから美味しいんですか?
うーん、どうだろう?品種が1つなので、味わいとしてはクリアだけどね。武夷岩茶の場合は、育った環境によるところも大きいから、正直、純種だからというだけで美味しいというわけではないね。むしろ、どのような環境で育ったかの方が大事で、大紅袍よりも有名な産地で出来た肉桂の方が美味しいということで、高値が付いたりしているので。名前だけでは一概に言えないかな。
なんだか奥が深そうな気がします。まずは肉桂と水仙あたりから、飲んでみたいですね。
閩南烏龍茶
福建省安渓県を中心とする福建省南部で生産される烏龍茶です。
福建省のことを一文字で「閩(びん)」というので、閩南烏龍茶です。
特徴としてはコロンと丸まった形をしているところだね。伝統的には焙煎が強く茶色い色をしたものが多かったんだけれど、最近は鮮やかな緑色のお茶が圧倒的に増えています(冒頭の写真)。代表的な銘柄は、安渓鉄観音(あんけいてっかんのん)や黄金桂(おうごんけい)。
鉄観音は聞いたことあります!あれ、でも茶色っぽかったような・・・
それが伝統的な鉄観音なんだけど、最近は緑色をした、蘭の花のような香りのする軽やかなタイプが多いんだよね。黄金桂というお茶もそういう仕上げになっているものが多い。
まるで緑茶のような色ですね。これが本当に鉄観音なんですか?
そう、最近はこういうのが多いです。でも、良いものは香りが本当に強烈で、しかも、飲んだ後の余韻が長く続きます。黄金桂は、香りに特化していて、香りは鉄観音以上に良いものが合ったりするけど、味わい自体は少し淡泊なイメージだね。そんなわけで、鉄観音が王様扱いで、それ以外の品種は少し落ちるイメージ。さまざまな品種をブレンドしたお茶を色種(しきしゅ)というんだけど、これはお手ごろで、そこそこ美味しいお買い得版のイメージかな。
閩南烏龍茶も品種なんですね。烏龍茶は品種が大事というのが分かった気がします。
後は、今見たような緑色のものは清香(チンシャン)と呼ばれるタイプで、伝統的な茶色っぽいものは独特の甘さがあるんだけど、これは濃香(ノンシャン)といって区別しています。この2つで好みが全然違うので、両方試してみるのがオススメだね。
私は断然、濃香派!
あら、やっぱり鉄観音は清香よ。
(両方飲んでみた方が良さそうね・・・)
広東烏龍茶
広東省東部の潮州市・梅州市で生産される烏龍茶です。
両市のすぐ隣は、福建省という省境にあります。
形状の特徴としては細長くよじれた形をしているところだね。閩北の烏龍茶と比較するともう少し撚りが強くて、火入れが軽い傾向。そして何よりの特徴は、鳳凰水仙種と呼ばれる、香りの高い品種を使っていること。茶葉に何も加えていないのに、葡萄のような香りのするお茶もあるし、キンモクセイの花のような香りのするお茶もあるし、本当に多彩な香りがある。
お茶の葉っぱから、本当にそんな香りがするんですか?
多分、飲まないと信じられないと思うんだよね。だから、ちゃんとしたものを飲んで欲しいなと思います。代表的な銘柄としては、鳳凰単叢(ほうおうたんそう)というお茶があります。潮州市の鳳凰山という山地で作られているお茶なんだけれど、1つ1つのお茶の木が、それぞれ違った香りの特徴を持っていた。それを活かすためには、それぞれノキから採れた葉っぱを混ぜずに製茶したから、単叢(1本の木)という名前になったと言われているね。
え、1本の木から作ったお茶なんですか?
今は同じ特徴を持った木を”品種”として育てているので、品種を混ぜずに、というぐらいの意味合いかな。ごくごく一部の樹齢の高い木だけは、1本の木で製茶しているものもあるけれど、ちょっとお値段がとんでもないことになっているので・・・
ひえっ!それは止めておきます。試すとしたら、どんなものがいいんですかね?
鳳凰単叢も香りのタイプをまとめているものがあって、そういうお茶には鳳凰単叢 蜜蘭香(みつらんこう)、鳳凰単叢 桂花香(けいかこう)のように香りのタイプの名前が書いてあります。蜜蘭香は生産量も多いので、入手しやすいので、最初はそのへんから。あとは、香りが分かりやすい桂花香だったりが良いかも。あとは、最近、香りの高さで人気の出てきている大烏葉(だいうよう)だったり鴨屎香(かもしこう)あたりがインパクトがあって良いかもね
台湾烏龍茶
台湾で生産されている烏龍茶ですが、台湾ではいくつかのタイプのお茶が生産されています。
主な銘柄としては、凍頂烏龍茶、高山烏龍茶、文山包種茶、木柵鉄観音茶、東方美人茶などがあります。
台湾の烏龍茶を全部語るのは、文字数的に厳しいので、ざっくりと概略を。
(文字数?)
台湾で一番ベーシックな烏龍茶は丸い半球状になった烏龍茶。凍頂烏龍茶(とうちょううーろんちゃ)、高山烏龍茶(こうざんうーろんちゃ)あたりがここに入るね。基本になっている品種は青心烏龍(せいしんウーロン)という品種なんだけど、金萱(きんけん・台茶12号)、四季春(しきはる)といった品種から作られるものも有り、それぞれ香りと味わいに特徴があります。
詳しくは以下で。
あ、そういう手があるんですね。。。
他のお茶とのバランスがね・・・。それはさておき、その他には文山包種茶、木柵鉄観音茶、東方美人茶などがあるんだけど、これはそれぞれ製法も違うし、形状も違ってます。ということで、これもこちらの記事を参照してください。
確かにこれはまとまっているね。
それぞれのお茶の詳細は、後日、さまざまな名茶のコーナーで紹介しますので、お待ちください。
烏龍茶は人気があって、情報も多いだけにどこまで書くかは難しいわね。
<今日のまとめ>
・烏龍茶は、萎凋、做青、殺青、揉捻の工程を経て作られるお茶であり、発酵程度は関係無い。
・産地によって製法や品種が異なり、大まかに閩北烏龍茶、閩南烏龍茶、広東烏龍茶、台湾烏龍茶にざっくりと分類出来る。
・烏龍茶は、「発酵」と「焙煎」と「品種」の組み合わせで、さまざまな香りと味わいが生み出される。
・さらに産地の違いなどでも差が生じるため、バリエーションは豊富で奥の深い世界が形成されている。
続く。