プロローグ~中国茶を勉強したい!
先日、台湾旅行から帰ってきた わかばさん。
スマホを片手に何か調べ物をしているようですが、ちょっとイライラモードの様子。
一体どうしたんでしょうか。
あー、分からない。調べれば調べるほど分からない。買ってきた烏龍茶を淹れようと思って、淹れ方調べたのに、みんな違うこと書いてる。お湯を一回捨てるの?捨てないの?ハッキリして欲しい!
そこへ帽子を被った一匹の猫が、ぬっと窓から顔を出しました。
お嬢さん、お茶でお困りですか?
ひいっ!猫がしゃべった・・・
あ、これはいきなりで失礼しました。私、お茶の妖精で フーマオ と申します。お茶で困っている人を見ると放っておけない性分でして。
お茶の妖精・・・猫なのに?
世を忍ぶ仮の姿ってやつですね。実は、そちらにも私の仲間がもう1名ほど・・・
部屋に置いてあったティーカップの中で、何かがもぞもぞと動き出しました。
もう!また人間を驚かせる登場の仕方をしちゃって。勘弁してよ、フーマオじいちゃん!
・・・また変なのが出てきた。私、疲れているのかしら・・・
急に驚かせちゃって、ごめんなさい。私もお茶の妖精で かおり です。私たちは、お茶でお困りの方にしか見えない妖精なの。
お茶でお困りのことがあれば、私たちに何でもどうぞ!
は、はあ・・・
急に言われても・・・って、感じよね。さっきから見てたら「烏龍茶 淹れ方 簡単」「烏龍茶 淹れ方 美味しい」とかで色々検索してたけど、ひょっとしてお茶の淹れ方を知りたいの?
そうなんです。台湾で飲んだときは凄く美味しかったのに、うちでは全然上手に淹れられなくて・・・ それで、ネットで淹れ方を調べていたら、みんな違うことを書いているし。一体、どれが本当なのか分からなくなっちゃって・・・
その心の声が私たちに届いたんじゃよ。よろしい、それでは私が直々にフーマオ流のお点前を叩き込んであげよう。
やっぱり、お茶って、○○流とか家元とか、そういう世界なんですか?茶道とかだと「一度習った先生は変えられない」とか「先輩は絶対」とか色々聞きますけど。正直、私、そういうの苦手で・・・
あー、お茶って結構そう思われがちなのよね。実際は違う世界もあるんだけど・・・。でも、そういう人にピッタリの人間の先生がいるから、私が紹介するわね。1週間待ってもらえる?
かおりさんは信用できそうなので、お願いします!
わかったわ。来週、隣の駅前にある茶館に来てね。
はい!
(私の立場・・・)
1週間後。
指定された茶館は駅のホームから見えました。
ガラス張りの明るい感じで、これなら気軽に入れそう。
こんにちは~
いらっしゃーい!
あ、どうも(この猫もいるんだ・・・)
わかばさん、いらっしゃい。この前、話していたのが、この人よ
はじめまして。あるきちです。
あ、どうもよろしくお願いします。(やっと人間が出てきた・・・)
大体の話はかおりさんから聞いているけど、烏龍茶の淹れ方が知りたいの?
それももちろんなんですけど、お茶って面白そうなので、一から色々と勉強してみたいな、と思っているんです。台湾のお茶屋さんに行ったら、烏龍茶が茶色くなくてビックリしましたし、飲んだことのないお茶が沢山あって、色々飲んでみたいなって。
うんうん。それは中国茶好き・台湾茶好きの王道に近いね。僕もそう。みんな、そんな感じで興味を持つんだけど、本とかネットで情報を調べてみると、微妙に違うことを書いているんで混乱するでしょう?
そうなんです!本によっても書いてあることが違って・・・ たとえば、お茶は発酵度で六大分類に分かれると書いてあったんですけど、発酵度のパーセントが本によって全部違うんです。
あー、分かります。それ、全部間違いですね。
えーーー!だって、本にちゃんと書いてあったんですよ。本に書いてあることは正しいんじゃないですか?たとえば、青茶は発酵度が15~70%なんですよね?
うーん、青茶っていうのは、中国大陸では、もはや死語かな。発酵度というのも、厳密な測定が出来ないものだし、そもそもお茶の種類は発酵度で分けているんじゃないよ。
ちょっと待ってください。本とかネットで調べたのと全然違うんですけど。そういうふうに言う根拠は何ですか?
お茶の種類を分類することについては、2014年10月に中国政府が公式文書(国家標準『茶葉分類』)を出していて、そこで製造方法の違いで分類すると明記されているんだよね。発酵度という話は一切出て来ない。本の内容より、政府の公式文書の方が確かだと思わない?
うーん、でも本に載っていたし・・・
その本、いつ出たもの?
Amazonでも新しい本がほとんど無かったので、これは中古なんですけど。えーと、2002年ですね。
その当時だったら、それで通ったんだよね。でも、中国茶は最近、ぐんぐん伸びていて、色々な言葉の定義をしっかりやるようになってる。向こうの大学には茶学部なんてのがあるぐらい、お茶は体系立てた学問になっているんだよね。
そうなんですか?中国茶の方は、経験を売りにしている方が多いように感じるんですけど?
もちろん、経験は大事なんだけれども、一人の人が見られる世界には物理的にも時間的にも限界があるからね。経験に加えて、学術的な積み重ねみたいなものが無いと、お茶は、なかなか分からないと思うよ。
学術的・・・いや、そこまでアカデミックじゃなくていいんで、ただ、色々なお茶を知って、飲んでみたいなと思っているんです。
そうよね。僕がやっているのも、まさにそれで。最新の学術的な根拠を下敷きにしながら、嗜好品として一般消費者が楽しむにはどんなことが必要かを伝える講座をやったりしているんだよね。お茶を嗜好品として楽しむのに必要な知識と技術。これを整理して伝えよう、と。
それ、聞いてみたいです!
うん、じゃあ少し紹介してみようか。
・・・こうして、中国茶の基礎知識を伝える個別講座が始まりました。
続く。