緑茶-生葉のフレッシュさと青さを活かしたお茶
ここからは六大分類の各茶類を1つずつ見ていきます。
まずは、緑茶です。
緑茶の定義
緑茶は、どのようなお茶であると定義されているのでしょうか?
まず、中国の定義をご紹介すると、
2.9 緑茶(緑茶) green tea
生葉を原料とし、殺青、揉捻、乾燥などの加工技術を経ることによって、生産された製品。
【出典】中華人民共和国・国家標準『茶葉分類』GB/T 30766-2014
となっています。
なお、中国では「生葉(中国語で鮮葉。英語ではfresh leave)」を”ツバキ属チャ(Camellia sinensis L.O. Kunts)の適切な品種から摘み取られた芽、葉、柔らかい茎で、様々なお茶を加工する際の原料となるもの。”と定義しています。
その製品が「茶葉(中国語で茶葉。英語ではtea)」であり、”生葉を原料とし、特定の技法によって加工され、いかなる添加物も含まず、人々の飲用あるいは食用に供される製品。”と明確に定めています。
中国ではお茶は天然自然のものという位置づけなので、添加物は一切認められていないの。
国際標準化機構(ISO)でも、緑茶は以下のように定義されています。
green tea
tea derived solely and exclusively, and produced by acceptable processes, notably enzyme inactivation and commonly rolling or comminution, followed by drying, from the tender leaves, buds, and shoots of varieties of the species Camellia sinensis (L.) O. Kuntze, known to be suitable for making tea for consumption as a beverage
【出典】ISO 11287:2011 Green tea-Definition and basic requirements
(抄訳)
カメリア・シネンシス種の柔らかい葉、芽のみから作られ、通常は酵素の不活性化(=殺青)と揉捻もしくは粉砕の後に乾燥させたもので、飲料として消費されるのに適したもの。
表現が少し違うところはあるけれども、「殺青」「揉捻」「乾燥」という工程で作られるお茶、ということだね。「不発酵茶」のようなことは書いていない。
世界的に緑茶は、こういう定義だということですね。
なお、実際の中国緑茶の生産現場を見てみると、茶摘みをした後にすぐに殺青するのではなく、風通しの良い冷暗所に少し置いておく「攤放(たんほう)」という工程を経るものが多いです。
この目的は水分を調整することと、生葉の青臭い香りを飛ばすために行うことにあります。
緑茶の特徴
緑茶の特徴は中国語で言うと、”緑葉緑湯”。要するに葉っぱが緑で、お茶の水色(すいしょく)も緑色ということだね。葉っぱの緑色は葉緑素の色で、水色の緑色は、お茶に含まれるフラボノール化合物などに由来するものです。緑という割には少し黄みがかっているものが多いけどね。
”緑葉緑湯”って特徴が分かりやすいですね。
製法から見ると、早い段階で高温によって酸化酵素を分解する”殺青”を行っているので、生葉の持っているフレッシュさや青さというものを良い意味で活かしているお茶と言えるかもしれないね。爽やかでスッキリとしたお茶になることが多いかな。
でも、中国は緑茶というイメージがあんまりないんですけど・・・
それは、日本人がよく誤解していることだね。実際は、中国で生産されているお茶の7割弱が緑茶で、輸出量が一番多いのも緑茶なんだよ。
そうなんですね。中国では烏龍茶ばっかり飲んでいるものだと思っていました・・・
ははは。それは日本で烏龍茶を販売している某社の宣伝の賜物だね。烏龍茶の産地である福建省だったり、中国でも少数民族の地域などを除けば、中国で一番多くの人に飲まれているのは緑茶だと思うよ。
ちなみに中国の茶の輸出相手国1位はモロッコです。
ガンパウダー(火薬)と呼ばれる、丸まった釜炒りタイプの緑茶を盛んに輸出しており、ミントティーの原料になります。
日本の緑茶と中国の緑茶の違い-生葉の大きさと摘み期
緑茶については、日本の緑茶との違いを見ていった方がより分かりやすいかもしれません。
まず、日本の緑茶と中国の緑茶(とりわけ高級緑茶とされるブランド茶)を比較すると、茶摘みが違います。
まず、茶葉の大きさが違います。
日本のお茶は、大体このくらいの大きさで摘みます。
一方、中国の最高級緑茶はこのくらいのサイズで摘みます。
葉っぱの大きさが全然違うのがお分かりいただけるでしょうか?
名の通った高級茶は新芽が出て葉っぱが開ききらないぐらいの時に摘むので、非常に淡い味わいですが、渋みも少なく、うまみを感じるお茶になります。
茶摘みの時期としては、緑茶の生産が盛んな浙江省などでは、3月上旬~下旬にその年の最初の一番茶が摘まれます。
特に二十四節気の清明(せいめい・4月4日頃)の前に摘まれたお茶は「明前茶(めいぜんちゃ)」と呼ばれ、珍重されます。
日本の場合は、茶摘みの適期は八十八夜(立春から数えて88日目・5月2日頃)とされるので、新茶のシーズンが1ヶ月くらい早くやって来ると言えます。
もっとも中国は広いので、南部では2月頃から茶摘みがスタートしているよ。
日本茶の場合は、比較的大きめの葉を摘むので、機械で茶摘みが可能です。
が、中国の高級緑茶は細かすぎるので手摘みで対応するしかありません。
中国の最高級緑茶を500g作ろうとすると、先程の写真ぐらいの大きさの新芽であれば、約6万個必要です。
そのサイズの新芽は、1人が1日で摘める数は、せいぜい数千個。人件費がかなりかかるということになります。
中国の人件費は日本より安いとはいえ、茶摘みの細かさを考えると、人件費のカタマリのようなお茶なんだよね。たとえば、中国緑茶の代表格とされる龍井茶(ロンジンちゃ)。その最高級ブランドである西湖(せいこ)龍井茶のその年の初摘みのお茶は、現地でもだいたい500g1万元(約15万円)はするね。初競りの値段とかではなく、それが定価。
えー!100gにしたら3万円ですか!?それは高すぎる。。。
まあ、それは初物だから高い金額にはなるんだけれども。少し遅くにちょっと大きめの葉を摘んだとしても、人件費だけでも結構な値段にはなるね。こんなに高いお値段のお茶ばかりじゃないけど、機械で摘める日本のお茶とは相場が全然違うのは事実。
一瞬、中国茶は怖いなぁと思いました・・・
西湖龍井茶は、お米でたとえれば”南魚沼産コシヒカリ”みたいなスーパーブランドだからね。そういうお茶には残念ながらお買い得品は無いけど、もう少し大きめの葉っぱを摘むお茶などは、手頃で美味しいものも結構あるから安心してね。
日本の緑茶と中国の緑茶の違い-製茶の方法
日本と中国の緑茶を比較すると、製茶方法も違います。
日本の緑茶は、蒸して殺青するものがほとんどですが、中国の緑茶の多くは、釜炒りで殺青します。
釜炒りで殺青すると、高温の釜に当たることで香気成分が増え、香りが豊かになります。龍井茶の場合は、このまま釜を使って形を平べったく整え、乾燥までやってしまうので、とても香ばしいお茶に仕上がります。
同じ緑茶でも作り方が違うと、タイプが違うんですね。
お茶の出を良くする揉捻の部分も違います。日本のお茶は針のような形状にきつく揉み込んでいくんだけど、そうすると細胞壁の破壊が進むので、液胞の成分(茶汁)が一気に出やすくなる。だから、日本の緑茶は1煎目や2煎目に味が一気に出るけれども、煎は続かない。一方、中国緑茶はそこまで揉捻がきつくないので、お茶の成分がゆっくりとしか染み出してこない。良く言えば煎が効くと言えるし、悪く言えば味の出が悪い、ということになるね。
グラスで楽しむ中国緑茶
そういう特性なので、中国緑茶は一般的にはこんな感じで茶葉をグラスやカップに入れっぱなしで飲むことが多いわ。
えー!茶葉漬けっぱなしで渋くならないんですか?
そこが中国緑茶の良い点なんだよね。コップかマグカップとお湯さえあれば良いから、非常に気軽。もちろん、ずーっと置いておいたら渋くなることはあるけど、その時は差し湯をして薄めれば、だいたい大丈夫。この飲み方をするときは、全部飲み切らずにコップの3分の1ぐらいまでお湯が減ったら、差し湯をして飲んでいくのがポイントかな。
グラスは、耐熱のグラスだとより安心です。
手頃なところだと、デュラレックスだったり、ホットウイスキーを飲むような取っ手の付いたガラスマグなども便利です。
4つのタイプの中国緑茶
中国で生産されている緑茶は、製法の違いで4つに分かれます。
まず一つ目のポイントが殺青の方法ね。中国でも一部のお茶は蒸して作るものがある。たとえば、恩施玉露というお茶だったり、抹茶だったり。これは蒸青(じょうせい)緑茶と呼ばれるので別枠。
中国でも抹茶を作っているんですね。知らなかった。
今、ものすごい勢いで作りはじめているよ。で、メインになるのは釜炒りで殺青する緑茶なんだけれども、その後の乾燥の方法で、味わいが大分違うので、乾燥方法の違いで3つに分けられる。それが、炒青(しょうせい)緑茶、烘青(こうせい)緑茶、晒青(さいせい)緑茶の3種類。
専門用語が出て来ましたね。。。
表で整理してみましょう。
殺青 | 乾燥 | 名称 | 特徴 | 主な名茶 |
釜炒り | 釜炒り | 炒青緑茶 | 豆・栗などの香ばしい緑茶に | 龍井茶、碧螺春茶、都匀毛尖など |
乾燥機・焙籠 | 烘青緑茶 | 清らかな香り(清香・蘭花香)の緑茶に | 黄山毛峰、信陽毛尖、太平猴魁など | |
天日干し | 晒青緑茶 | 天日干しした香りに。色も少し落ちる。 | 主に黒茶の原材料に | |
蒸し | 蒸青緑茶 | 青のりのような香り | 恩施玉露、抹茶など |
この中で一番生産量が多いのが、最初の炒青緑茶。釜で殺青して、釜で乾燥するものね。火に当たり続けることもあって、香ばしい味わいになりがち。次に一部の高級緑茶で使われるのが、乾燥機の温風や輻射熱で乾燥させる烘青緑茶。これは清らかな香りだったり、蘭の花のような香りの緑茶になる。安徽省あたりの名茶に多いかな。
これは飲み比べてみると差がハッキリしているので、面白いよ。
それから、晒青緑茶なんだけど、これは市販の緑茶というよりは半製品的な扱いかな。天日で干すので、殺青が甘かった場合は、ちょっと酸化酵素が生き残る可能性がある。そのため、黒茶を作るときには欠かせない材料になる。プーアル生茶ってのを飲めば、その味わいは分かるかも。あとは、蒸して殺青したもので、これは日本のと似たタイプになるね。
うーん、やっぱり飲んでみないとなかなかイメージつかないですね。
そうだね。お茶は飲み物なので、やっぱり飲んでこそ分かるものもあると思います。”百聞は一見にしかず”じゃなくて”百聞は一飲にしかず”だから。詳しくは「さまざまなお茶」のシリーズで紹介していきます。
<今日のまとめ>
・緑茶は、殺青、揉捻、乾燥の工程を経て作られるお茶である。
・日本の緑茶とは、生葉の大きさと茶摘みのタイミング、製法(特に殺青の方法と揉捻の度合い)に違いがあり、それによって個性が大分違う。
・中国緑茶は、グラスやマグカップに漬けっぱなしで飲むスタイルで気軽に飲める。
・中国緑茶は殺青と乾燥方法の違いで、炒青緑茶、烘青緑茶、晒青緑茶、蒸青緑茶の4種類に分かれる。
続く。